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第2話 ユニコーンとバイコーン

 僕が呆然と立ち尽くす前で、黄金の門がギギギ……と、星々のきしむような重々しい音を立てて、ゆっくりと内側へ開いていった。


(入るしかないのか……これ)


 門の向こうから、暖かく、そしてどこか甘い香りの風が吹いてくる。僕は意を決して、雲の上の一歩を踏み出した。


 門の奥は、だだっ広い神殿のような場所だった。床も柱も壁も、すべてが磨き上げられた大理石でできていて、僕の安物のスニーカーでは歩くのもためらわれる。その一番奥、巨大な玉座に、一人の女性が座っていた。


 長く波打つ白金色の髪。雪のように白い肌。人間とは思えないほど整った顔立ち。身にまとった純白のドレスは、それ自体が光を放っているように見える。


 まさしく、女神様だ。


「よ、よくぞ参りました、下界の者よ……」


 女神様は、荘厳な声でそう言おうとして……途中でこらえきれなくなったように、玉座からぱたぱたと駆け寄ってきた。


「……なんて、もう待ってられませんですぅ!」


「えっ!?」


 突然のキャラ変に、僕は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。女神様は僕の手を両手でぎゅっと握りしめ、潤んだ瞳で訴えかけてくる。


「わたくしはルーミア! この天界を管理する女神ですぅ! あなたにお願いしたいバイトがあるのですぅ!」


「は、はあ……」


(この女神様、だいぶ残念な人だ……)


「近頃の人間は、動画サイトとかいうもので、毎日毎日モフモフな動物を見て癒されているじゃありませんか! ずるいですぅ! わたくしも癒されたいのですぅ!」


 ルーミア様はぷんすかと頬を膨らませる。その姿は、神々しいというより、なんだか子供っぽくて可愛らしい。


「天界からでは、下界のサイトは見ることができなくて……。ですから、せめて写真だけでも……! 高画質で、最高にキュートな寝顔写真をお願いしたいのですぅ!」


 その時、僕が入ってきたのとは別の扉が開き、一人の女の子がひょっこりと顔を出した。


「ここであってる? つか、マジで天界じゃん、ウケる」


 明るい金髪に、少し濃いめのメイク。耳にはピアスが光っている。制服を着崩したその姿は、まさしく『ギャル』だった。


(うわあ……。僕とは住む世界が違うタイプの人だ……)


「おお! 二人目の方ですね! お待ちしておりましたですぅ!」


 ルーミア様がぱあっと顔を輝かせる。ギャルの子は、僕をちらりと見ると「あんたもバイト?」と気だるそうに尋ねてきた。彼女はひまり、と名乗った。


「お仕事は、一日で終わりですぅ。夜にはちゃんと元の世界にお返ししますから、安心してくださいまし!」


 ルーミア様の言葉に、僕は心の底からほっとした。


(なんだ、ちゃんとしたバイトだったのか……。いや、状況は全然ちゃんとしてないけど)


「さあ、お二人とも! こちらへ!」


 ルーミア様がパン、と手を叩くと、僕とひまりさんの目の前に、きらきらと光る無数のカードが宙に現れた。トランプの束どころではない。何百枚、いや、もしかしたら千枚以上あるかもしれない。


「このカードが、今日撮影していただく対象のモフモフさんですぅ。さあ、一枚ずつ引いてくださいまし! 見事、寝顔の撮影に成功したら、わたくしから素敵なご褒美を差し上げますですぅ!」


 僕とひまりさんは、顔を見合わせた。そして、無数に浮かぶカードの中から、それぞれ直感で一枚を選び、手を伸ばす。


 僕が引いたカードの表面には、月光の下に佇む、神々しい一角獣の姿が描かれていた。


「ユニコーン……?」


「は? 何これ、パチモン?」


 隣で、ひまりさんが眉をひそめている。彼女が引いたカードに描かれていたのは、ユニコーンによく似ているが、額から二本の角を生やした、少しだけ凶暴そうな馬だった。


「わたくしの世界では、どちらもれっきとした幻獣、バイコーンですぅ!」


 ルーミア様は、僕たちの手にあるカードを見て、満足そうに胸を張った。


「さあ、お二人とも! 頑張ってくださいまし!」


 女神様の高らかな声と共に、僕たちの足元が、再びまばゆい光に包まれていった。

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