第1話 と、あるモフモフ寝顔撮影のバイト
今日も今日とて、僕は至福の時間を過ごしていた。
薄暗い自分の部屋、ベッドの上で寝転がりながら、スマホの画面を眺める。そこに映し出されているのは、もはや僕の生活の一部と化した、モフモフな動物たちの動画だ。
(ああ、この無防備な寝顔……たまらない!)
子猫が母猫の腕の中で、小さな寝息を立てている。時折、ぴくぴくと動く耳。安心しきったその表情は、どんな芸術品よりも僕の心を癒してくれる。肉球をプニプニと触られても、気持ちよさそうに喉を鳴らすだけ。最高だ。
お腹に顔をうずめて、その温かさと柔らかさを全身で感じたい。眠っているのをいいことに、ぷにっとした鼻をポチっと押してみたい。そんな欲望が、画面を見るたびに僕の心を満たしていく。
そんな、いつもの日常が揺らいだのは、本当に突然のことだった。
ピコン、と軽快な通知音が鳴る。動画サイトの通知かな、なんて思いながら画面の上から指をスライドさせると、そこに表示されていたのは、見慣れないショートメールだった。
「なになに……?」
僕は思わず声に出して、その文面を読んでしまった。
「『動物の寝顔をスマホで撮るバイト探しています。動物が寝ていないとダメなので根気がいります。急募』……?」
(なんだこれ。怪しすぎるだろ……)
普通なら、即座に削除して無視するところだ。でも、僕の指は止まっていた。『動物の寝顔』。そのキーワードが、僕の心を強く掴んで離さない。
メールの最後には、一行だけ、こう書かれていた。
『説明会場はこちらです』
その下には、地図アプリへのリンクらしきものが青く光っている。
(どうせ迷惑メールの類だろうけど……ちょっとだけなら、いいか)
好奇心には勝てなかった。それに、万が一、本当にそんな夢のようなバイトがあるのなら……。
僕は軽い気持ちで、そのリンクを指先で、ぽん、と軽く押した。
その瞬間、スマホの画面が、ありえないほどの光を放った。
「うわっ!?」
太陽を直接見たかのような、まばゆい純白の光。思わず手で顔を覆ったが、光は指の隙間を通り抜け、僕の視界を真っ白に染め上げていく。体がふわりと浮き上がるような、奇妙な感覚。
そして……。
次に目を開けた時、僕は言葉を失った。
足元には、どこまでも続く真っ白な雲の海が広がっている。見上げれば、ステンドグラスのように七色に輝く空。そして目の前には、巨大で荘厳な、黄金の門がそびえ立っていた。
(……え? 何? 夢?)
何度も頬をつねってみるが、痛みだけが生々しく、夢から覚める気配はない。
僕は、どうやら天国……いや、天界と呼ぶべき場所に、飛ばされてしまったらしかった。
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