"收监"
カーテンの隙間からの
きらきら陽射しが眼に飛び込んで来て、眼を覚ます
少し埃と黴っぽいけど、柔らかな布団が躰に乗って居るのが解る
知らない家のベッドだった
明瞭にならない意識の中で、赤児の様に不思議そうに陽光を視詰めて居ると
部屋のドアを開けて男性が入って来た
「あ、起きたんだ」
優しそうなお兄さんだ
手にした銀のトレイには珈琲と、一皿のサンドイッチが載って居る
僕の分だと云う事だった
「貴方は………?」
食事のあと
完全に順番を違えてしまったが、僕は当然の疑問を口にした
お兄さんは最初、完全に質問の意味が解らないのか、表情の無い顔と、何処を視て居るのか判然とし無い視線で其れを聞いて居たが、大きく間を開けてから考え込み始めると「ああ、そういう事か」「記憶が………」と呟き、直ぐに優しい顔で僕を抱き締めた
「僕は、君のお兄ちゃんだよ」
躰の抱かれて居る所が、暖かくて安心する
其の所為か、少しずつ眠たくなってきた
「───眠くなったのかな?」
「もう少し休むと良いよ」
そう云って僕の額に口付けると、兄は部屋を後にした
去り際に、お兄ちゃんは部屋に施錠をした様だった
其の時になって気付いたが、窓も、外側で取っ手が針金でぐるぐる巻きに固定されて居た
理由は解らなかった
───数日経った
解った事が有る
食事には必ず、『眠くなるもの』が入って居る
そうでもないと説明が付かない
僕は一日の大半を、眠りながら此の部屋で過ごして居る
お兄ちゃんは、僕に手錠を掛ける様になった
食事の時は外してくれるのかと思ったら、そう云う訳でもなく、代わりにお兄ちゃんが僕に食べさせて呉れた
もう一つの解った事として、お兄ちゃんは心の底から……僕の事が好きみたいだった
其れは『家族』とか、そう云うのでは無くて……好きみたいだった
或る日
其の日は、朝から兄が機嫌が良さそうだったので、僕は遂に「ねえ」「そろそろ、外に出てみたいんだけど………」と、僕は恐る恐る兄に申し出た
途端
鼻に硬いものが激突して、僕は訳も解らないまま、ベッドの後ろの壁に頭を打ち付けた
鼻を両手で押さえようとすると、其れよりも早くお兄ちゃんが僕の胸くらいの位置に馬乗りになり、拳を滅茶苦茶に何度も顔へと打ち下ろして来た
「やめ…………」
『やめて』と言おうとした口に拳が振り下ろされ、僕は舌を強く噛んだ
口の中が溺れる位の血で満たされ、殴られ続けてる事もあって、僕は直ぐに窒息して気を喪った
一瞬の暗転のあと
眼を開くと、兄はさめざめと泣いて居た
「ごめんね」
お兄ちゃんが云う
「でも兄弟は絶対に一緒じゃないと駄目だから、君は此の部屋に居ないと駄目だし」
「僕は、君のお兄ちゃんだから」
お兄ちゃんはたまに、僕には意味が解らない事を喋る
詳しく聞こうとすると感情的になるし
僕は『此れ以上怒らせたら、殺されるのかも知れない』って思ったので、聞かなかった
今度、僕の両足を切るのだと兄は云って居た
理由を聞くと、「悪いことをしないように」という事らしい
確かに、僕はもう此の部屋が嫌だった
逃げたかった
あの人は多分、本当は僕の兄なんかじゃ無い
兄が部屋に入って来た
手には鋸を持って居る
「もう逃げないと」「殺される」
そう思い、僕はベッドから飛び出すと、走って兄に躰当たりをした
ぶつかった衝撃で鋸が兄の顔に当たり、兄は顔を押さえて苦しげな声を漏らした
其の指の隙間から、紅い血が沢山溢れて居て
僕は怖くなって廊下に飛び出した
部屋の外に出て、僕は言葉を喪った
廊下には数え切れない人数の、足のない男の子が、血に塗れた姿で音を立てて這いずり回って居た
虚ろな表情の少年たちが、僕を視て集まって来る
近くの何人かが僕の足首を掴み、僕は転倒した
背後からは、べちゃ、べちゃ、という足音が聞こえて来る




