Aエンド. 「アンドロイドを助ける」
私は意を決し、銃を構えながら男たちの前に姿を表した。
男たちは私の手元を見ながらゆっくりと手を上げた。二人とも銃は持っていないようだった。私がアンドロイドを放してやるよう要求すると、男は私を睨みつけながらアンドロイドの上から降りた。
「なんなんだ。あんたもこのアンドロイドが欲しいのか?」
私は違うと答えた。今のこの状況で彼らにこのアンドロイドが抱える事情について説明するのは難しいと思われたので、私はまた明日来い、明日ならばそこの発電機は持っていって良いとだけ言った。男は首を振った。
「明日じゃだめだ。俺たちには今しかないんだ。あんただってそうだろう」
私は銃を構えたまま一歩近づいた。男は少しずつ後ずさる。
「そのアンドロイドが、その機械がそんなに大事か。あんたも俺たちと同じ人間だろう」
人間だからだ、と私は答えた。
男たちは逃げていった。
アンドロイドはふらつきながらも立ち上がった。
「感謝いたします。危うくスクラップにされるところでした。まあそうなったらそうなったで運命と受け入れるつもりではありましたが、おかげさまでプロジェクトを完遂できそうです。お手数ですが、主人をテントから連れてきていただいてもよろしいでしょうか」
私がテントから車椅子を押してくると、アンドロイドは自分の胸部を開きケーブルを接続しているところだった。
「どうやら先ほどの騒ぎで予備バッテリーが破損したようです。仕方ありません。メインバッテリーを使おうと思います。とはいえメインバッテリーもここ最近の稼働で消耗が激しく、おそらくプロジェクト完了後の照明器具の返却は不可能になるでしょう」
私は代わりに自分が返却しておくと請け合った。
「ありがとうございます。そうしていただけると大変助かります。それではイルミネーションの点灯と参りましょう」
車椅子を公園の中央に運び、アンドロイドは発電機を起動した。手元のスイッチを押す。
眩い光が公園中に満ちた。
不揃いで拙い光だ。失われつつある世界から不用品をかき集めてやっと灯した光は、今日この瞬間が最後の輝きとなるだろう。しかし例えそうだとしても、いま我々の前にあるのは悲しい美しさを伴った暖かな光だった。
アンドロイドは車椅子の背に手を置いた。
「美しい光です。いえ、光とはそれだけで美しいものなのかもしれません。少なくとも人間がそう思うから、私もそう思うようにプログラムされたのでしょう。明かりを灯すことは人間の原始的な喜びや希望と繋がっているのかもしれません。そして喜びや希望を他者と分かち合うことは更なる高次の喜びです。ゆえに私は今、一言で言えばとても幸せです」
アンドロイドは車椅子に置かれた骸骨の虚ろな眼窩を覗き込んだ。
「ご主人様、お休みになられたのですね。私も失礼して少し休ませていただこうと思います。先ほどの騒ぎ以来、システムの一部に異常が発生しています。おそらく論理回路に物理的な破損が起こったのでしょう。最後にご主人様にこの景色をお見せすることができて、私は非常に嬉しく思います」
しばらくするとアンドロイドは前傾姿勢のまま動かなくなった。次第に一部の光が弱々しくなり、ついにはアンドロイドのバッテリーに繋がれた一角が消灯した。
私はアンドロイドからケーブルを外してやり、車椅子の横に寝かせた。私が発電機を止めると公園は闇に包まれたが、目を閉じると暖かな光の余韻が瞼の裏できらめいた。
次の日、私はテントのそばに穴を掘り、アンドロイドとその主人を埋葬した。一日掛かりの作業だったが昨日の男たちは現れなかった。
アンドロイドと約束したものの、私は公園に飾り付けられたオブジェや電飾は返却せずそのままにすることにした。あまりに数が多いし、今更返却を求めるものもいないからだ。
公園を出る直前、私はもう一度そのオブジェや木々たちを眺めた。夕闇の中で眠りにつくそれらは消灯した遊園地のようでもあり、ここに眠る二人の墓標のようでもあった。
喜びや希望を他者と分かち合うことは更なる高次の喜び。
私はアンドロイドの言葉を思い出す。あのとき不恰好なイルミネーションを眺めながら私もまた受け取っていた喜びを胸に、私は公園を後にした。