第3章 「友情を越える絆で結ばれた二人の少女士官」
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。
手刀の風圧だけでビーチボールの軌道を変え、離陸時も着地時も一切物音を立てずに全てを遂行する。
文句の付け所の無い見事なファインプレーを成し遂げて、赤いビキニを着て砂浜に佇んでいるフレイアちゃんも自信満々な微笑を浮かべているね。
だけどその自信満々な微笑が真っ直ぐに捉えていたのは、私と美鷺ちゃんの二人ではなかったんだ。
「如何です事、葵さん?この私の妙技の御感想は?」
そう呟くフレイアちゃんの眼差しは何とも熱っぽく、そして何処となく切なげだったの。
この陽光の降り注ぐ紀州の砂浜の溌剌とした爽やかさとは微妙にそぐわない、年齢には不相応な妖しさと艶かしささえ伴っていたね。
そうして呼び掛けられた人影はというと、フレイアちゃんとは至って対照的な様子だったんだ。
「おおっ、やっる〜っ!凄いじゃない、それでこそフレイアちゃんだよ!私、思わず見惚れちゃった!」
腰まで伸ばしたピンク色のストレートヘアーや美しい肢体を包む純白のビキニ水着の持つ陽気なイメージに違わず、砂浜に立つ第四の人物は声色も表情も至って明朗快活で何の屈託もなかったんだ。
この子は神楽岡葵ちゃん。
美鷺ちゃんやフレイアちゃんと同様に、私にとっては堺県立御子柴高等学校の同級生でもあり、人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第二支局に在籍する特命遊撃士の同僚でもあるんだ。
そんな葵ちゃんの個人兵装である可変式ガンブレードには、フレイアちゃんのエネルギーランサーとの合体機能が搭載されているの。
単独で運用しても充分に強い可変式ガンブレードとエネルギーランサーだけれど、二つの個人兵装を合体させたガンブレードランサーから繰り出される神雷断罪剣の破壊力たるや、それは圧巻の一言だよ。
いつぞやの中百舌鳥での戦闘では、土偶みたいなフォルムをした戦闘ロボットを見事な連携で完膚なきまでに叩き壊しちゃったんだ。
その阿吽の呼吸たるや、さながら結婚式のケーキ入刀だね。
そんな合体式の個人兵装を運用しているだけあって、戦闘時における葵ちゃんとフレイアちゃんの連携は息もピッタリで見事な物なんだ。
漢王朝の末裔という出自を活かして蜀漢を興した劉備玄徳と軍師として劉氏を生涯に渡って支えた諸葛孔明の逸話を引き合いに出すなら、正しく「水魚の交わり」って感じかな。
だけど葵ちゃんとフレイアちゃんが息ピッタリなのは、何も戦闘時に限った話じゃないんだよね。
それと言うのも…
「まあ、葵さんったら…見惚れるだけで御座いますの?私と致しましては、願わくば惚れ直して頂きとう御座いましてよ?」
「ヤダなぁ、『惚れ直す』だなんて。フレイアちゃんったら水臭いんだから…私がフレイアちゃんに身も心も一途だって事は、他ならぬフレイアちゃん自身がよく知ってるじゃない。」
ああ、もう…
言ってる側からこの有り様なんだよなぁ、あの二人と来たら。
ああやって互いの肩や顎に手をやったり耳元で囁やき合ったりと隠す気なんて全くないんだから、見ている私の方が気恥ずかしくなっちゃうよ。
女所帯である人類防衛機構なら往々にしてよくある事なんだけど、葵ちゃんとフレイアちゃんの二人は友情よりも更に深い絆で結ばれているんだよね。
合体機能の搭載された個人兵装を運用する都合を考えるなら、いがみ合っているよりはよっぽど良いんだけど。
とはいえ件の二人が固く結び合っているのは心に限った話じゃないし、水魚の交わりなんて生優しいレベルじゃない程の交わりがあるんだよなぁ。
あまりにも生々し過ぎて、私の口からは流石にちょっと言えないけど…
「この加太要塞に合宿研修に来て以来、もう毎夜の如くじゃない。このままじゃ私、フレイアちゃんに何かされてないと安眠出来ない身体になっちゃうよ。」
「まあ、葵さん…それこそ私の望む所でしてよ。それにしても…昨夜は何時になく激しくて実に見事でしたわ。今宵も寝かせません事よ、葵さん。」
ほ〜ら、ねっ…
私や美鷺ちゃんがすぐ側にいるっていうのに、二人ともお構いなしで物凄い事を言っちゃってさ。
ここまで包み隠さずに露骨な事を言っていると、かえって清々しくて好感が持てちゃうけど。