プロローグ第4章「合宿研修は新婚旅行の代用品?」
悪辣極まりない邪教集団である黙示協議会アポカリプスの脅威と、そんな危険な邪教集団との戦いで負った重傷に起因する長い昏睡状態。
それらの要因で失った2年間の歳月は決して帰っては来ない。
だけど前者は残党も含めて駆逐してやったんだし、後者に関しても他の友達と同じ少佐階級に追いつく事が出来た訳だからね。
そうして心の中に残った蟠りを奇麗さっぱりと吹っ切ったんだから、後は未来に向けて進むだけだよ。
大切な友達や敬愛できる上官達と一緒にね。
ところが、そんな私の新しい決意は思わぬ形で出鼻を挫かれちゃったの。
それも他ならぬ同期の友達によってだよ。
「おっ、やった!しめた、しめたよっ!」
「えっ、何?どうしたの、葵ちゃん!何がしめたって?」
葵ちゃんったらいきなり素っ頓狂な声を上げるんだから、参っちゃうなぁ。
さっきから軍用スマホを血眼になって操作していたと思ったら、急にこれだもん。
とはいえ、そんな私の疑問は頭をもたげて早々に解決しちゃったんだけどね。
「フレイアちゃん、宿直室の予約が休憩コースで取れたよ。私とフレイアちゃんが常宿にしてる、絶景のスイートルーム!」
「まあ!それは僥倖で御座いますわ、葵さん。こうして御互いに少佐に昇級出来た事ですし、此度の逢瀬は一層に興が乗るという物で御座いますわ。」
見事なまでの破顔一笑だけど、フレイアちゃんったら本当に包み隠さないんだよなぁ。
さっき私が言いかけてた「別の理由」ってのは、こういう事なんだよね。
女所帯の人類防衛機構ならそう珍しくもないけど、要するに葵ちゃんとフレイアちゃんの二人の仲は友情よりも更に深い情愛の間柄に至っているんだ。
早い話、葵ちゃんとフレイアちゃんの連携は戦闘以外でも遺憾なく発揮されるし、その二人が合体させるのは個人兵装だけじゃないって事だよ。
「それでは私共は御暇させて頂きますが、御免あそばせ。」
「じゃあね、千里ちゃん。今からフレイアちゃんと良い事してくるから、スマホに連絡されてもすぐには出れないよ。」
そうして嬉々とした様子で高層階用エレベーターへと消えて行ったんだ。
「あ、アハハ…どうぞ、御達者で…」
こうして呆気にとられながら見送るしか出来なかったよ。
毒気に当てられるとは、正しくこの事だよ。
それは長いようで短くも感じられる、何とも言えない時間だったね。
どうにかこうにか我に返った私だけど、しばらくは口を開けたままで喋れなかったの。
「全くもってお盛んな連中だな。まだ午前中だってのに、本当よくやるよ…」
一足先に旧に復する事が出来たのか、マリナちゃんが呆れたように吐き捨てていた。
「ちさ、英里。二人とも忙しくないなら、今から地下食堂にでもしけこもうや。缶ビールの一本でも飲んで気分転換をしといた方が良いだろう。」
軽く首を左右に振っているのは、それでもまだ落ち着かないからだろうね。
その気持ちはよく分かるよ。
「あっ…あの、千里さん…もしや御二方が軍用スマホで予約された宿直室とは、私共が先程チェックアウトした部屋では御座いませんか?」
「タイミング的には十中八九そうだろうね、英里奈ちゃん。私が夜勤シフトで仮眠を取っていたベッドであの二人が何をやるのか、大体想像がついちゃうよ。こんな日の高いうちからああいう事やっちゃって、宿直室から出て来た時に太陽が黄色く見えてなきゃ良いんだけど。」
そんな具合に戦国武将の血を受け継ぐ伯爵令嬢にどうにか応じた私だけど、今後の事を思うと色々と考えちゃうんだよな。
何しろ間もなく始まる合宿研修だと、向こう一週間はあの二人と一緒だからね。
葵ちゃんとフレイアちゃんの二人が宿舎を相部屋にして貰えるように掛け合うのは、ほぼ確実だね。
もしも隣部屋になろう物なら、合宿中は毎晩のようにあの二人のいちゃつく声を聞かされるんだろうな。
「きっとあの連中にとっては、今回の合宿研修は新婚旅行みたいな感覚なんだろうな。」
「は、はあ…新婚旅行で御座いますか、マリナさん。葵さんとフレイアさんの御二人で御座いますと、その線は充分に考えられますね。」
先に少佐へ昇級した二人の呆れたような会話を聞いていると、何とも力が抜けてきちゃうよ。
やれやれ、何ともはやだね。
まあ、葵ちゃんもフレイアちゃんの二人も私にとっては大切な友達な訳だし、楽しくやりたい事に変わりはないんだけど。
そういう場面にニアミスする可能性が必ずあるって事だけは、心積もりをしておかなくっちゃなぁ。