第27章 「佐官としての初陣を終えて。吹田千里少佐、新たなる誓い」
そうした具合に此度の駆除作戦は無事に完了し、パプワニューギニアから遠路はるばると和歌山の豊かな漁場を荒らしに飛来した邪悪な肉食ローペンの群れは一羽も残さず太平洋の藻屑と化したんだよ。
正しく、戦雲はここに収まったって訳だね。
特定外来生物の存在は人畜の脅威となるだけでなく生態系の破壊にも繋がる訳だから、繁殖しないように徹底的にやらなきゃいけないんだ。
油断して取りこぼしちゃったら、後々が本当に大変なんだよ。
そう言う訳で、一人の殉職者も重傷者も出さずに作戦を終えた強襲揚陸艦の甲板には、適度な緊張感を保ちつつも和やかな雰囲気に満ちていたんだ。
「この分だと夕方には充分に支局へ戻れそうだね、フレイアちゃん。高層階の宿直室の予約が無駄にならずに済みそうだよ。」
「まあ…それは僥倖ですわね、葵さん!今宵は激しくしても構いませんわよ。」
あの二人ったら、エアバイクを着艦させて早々に凄い事を言っているよね。
本当に包み隠さないんだから。
「お疲れ様です、神楽岡葵少佐、フレイア・ブリュンヒルデ少佐。御活躍でありますね。」
クルーのお姉さん達も、思わず苦笑しちゃっているじゃないの。
まあ、充分過ぎる戦果を挙げているから私もとやかく言う気はないけどさ。
「おうおう、千の字も覚の字も…やるじゃねえか、御二人さんよ!お陰で交代要員の私達なんか、この通り出る幕もなかったぜ。」
「まぁまぁ、良いではありませんか。交代要員の我々まで動員せずに済んだという事は、滞りなく駆除作戦が遂行出来たという何よりの証拠なのですから。」
帰還した私達を甲板で出迎えてくれた手苅丘美鷺少佐と丹生桂子少佐からすれば、確かに今回の作戦は少し物足りなく感じられるのも仕方ないかもね。
何しろ二人の個人兵装は西洋式サーベルと軍刀で今回の駆除作戦と相性が良くないから、交代要員に回されていたんだよ。
「暴れ足りない美鷺ちゃんの気持ちは分かるけど…私達が安心して戦えたのも、美鷺ちゃん達が後に控えてくれていたからだよ。あのまま戦いが長引いていたなら、そのうち補給とかが必要になって来た訳だし。」
「そうそう!それに桂姉達だって、ドローン操縦とかのサポートで頑張ってくれていた訳じゃない。」
覚葉ちゃん達が言うように、今回の駆除作戦の成功は最前線で暴れ回っていただけが勝ち取った戦果じゃない。
美鷺ちゃんや桂子ちゃんのような交代要員の子達は勿論だけど、新宮沖美艦長を始めとする強襲揚陸艦・紀ノ国のクルーや海保と海自の人達だって、私達が戦いやすいように最善を尽くしてくれた訳だからね。
「新任少佐の諸君、見事な武勲であった。此度の駆除作戦は貴官達にとって良い腕試しの機会になった事であろう。此度の作戦や合宿研修で学んだ諸々の事象を忘れる事なく、各々の配属先で特命遊撃士としての本分を果たすように。」
「はっ!承知しました、新宮沖美艦長!」
こうして此度の作戦指揮官であらせられる新宮沖美艦長からも励ましの御言葉を頂けたし、少佐としての私達のキャリアは良い感じのスタートダッシュを出来たと言えそうだね。
‐新宮沖美艦長の御言葉に報いる為にも、そして肩に頂いた金色の飾緒に相応しい立派な佐官になる為にも、これから一層に頑張らなくちゃな…
他の新任少佐の子達と一緒に甲板で敬礼姿勢を取る私の胸中には、そんな思いが去来していたんだ。
それにしても、こうして強襲揚陸艦の甲板で敬礼していると、遊撃服のセーラーカラーを揺らす潮風が何とも心地良いね。
もしかしたら今の私は、軍人としての美学に酔い痴れているのかも知れないなぁ。
もしも出来る事なら、もうしばらくは敬礼姿勢を取っていたい所だよ。
こうして私を始めとする新米少佐の一同は誰一人欠ける事無く、ローペン駆除作戦の成功という武勲を手土産に故郷の堺県堺市へと無事に帰還出来たって訳。
「和歌山支局ともパイプが出来て、オマケに新技も編み出したか。ちさもなかなか充実した合宿を過ごせたみたいだね。」
「私達三人の時は、特に波風立つ事なく合宿最終日を迎えて普通に帰ったけど…なかなか幸先の良い初陣を迎えられたようで良かったじゃない、千里ちゃん!」
サイドテールコンビからもこんな評価を貰えたし、私としても大満足な合宿だったね。