プロローグ第3章 「もう二人の合格者達の絆」
しかし友ヶ島要塞での合宿研修に夢と期待を膨らませているのは、何も私だけに限った話じゃないんだよ。
何しろ今回の試験に合格して佐官に昇級出来た子達は、私以外にも相当数いる訳だから。
部分的成人擬制なしでも普通にお酒の飲める十八歳に達していそうなお姉さんの合格者も少なくないし、その逆もまた然り。
私達よりも遥かに若い中学生位の子も、少ないながら混ざっているからね。
優秀ならば若くても出世が出来るのが、この人類防衛機構の良い所だよ。
何しろ我が堺県第二支局で支局長を務めておいでの明王院ユリカ大佐は、小学校の時には既に少尉として前線に御立ちでいらっしゃったんだからね。
だからこそ、同じ堺県立御子柴高等学校のクラスメイトが合格発表の場で大喜びしているのを確認出来た時には、私も同じ位に嬉しくなっちゃうんだ。
「ああ、御座いました…御座いましたわ、葵さん!これで私と葵さんは、御揃いで少佐に昇級出来ますのね!」
「うん!そうだよ、フレイアちゃん!私、フレイアちゃんなら必ず出来るって信じてたもん!」
掲示板の傍らで抱き合う形で喜びを全身で表現する二人の少女の姿は、合格発表の確認に訪れた受験生達の中でも事更に目立っていたの。
それも無理はないよね。
何しろ私や英里奈ちゃんを始めとする特命遊撃士の大半が軍服である白い遊撃服を着ているのに、あの二人に関しては堺県立御子柴高校の制服である赤いブレザーとダークブラウンのミニスカに身を包んでいるんだから。
確かに人類防衛機構では遊撃服と同じ特殊繊維で特注さえすれば一般生徒用の制服を着用するのを許可しているけど、書類を書く手間やらコストの問題もあって実際に特注して貰っているのは少数派なんだよね。
あのピンク色のロングヘアーが目にも鮮やかな神楽岡葵ちゃんと白いヘアバンドで纏めたセミロングの金髪がフィンランドの公爵令嬢という高貴な来歴を分かりやすく示しているフレイア・ブリュンヒルデちゃんは、そんな少数派の代表例だね。
葵ちゃんが個人兵装に選んだ可変式ガンブレードとフレイアちゃんの個人兵装であるエネルギーランサーには合体機構が搭載されていて、大型兵装であるガンブレードランサーに合体出来るの。
このガンブレードランサーは強烈無比な破壊力を誇るから、有事の際に何時でも合体させて運用出来るように、葵ちゃんとフレイアちゃんはかなりの頻度で行動を共にしているんだ。
もっとも、あの二人が何時でも一緒なのには別な理由もあるんだけど。
そうした具合に合格者の群れから見知った顔を探していた私の様子は、向こうからも丸見えだったんだけどね。
「おっ、そこにいるのは千里ちゃんじゃないの!さっきの喜び様から察するに、どうやら千里ちゃんも無事に合格出来たようだね。」
「ありがとう、葵ちゃん。お察しの通りって奴だね。お陰様で友ヶ島の合宿研修にも、葵ちゃんと一緒に行けそうだよ。」
同じ堺県立御子柴高等学校の一年A組に在籍している縁もあり、私と葵ちゃんとは会えば気さくに挨拶を交わす仲なんだよね。
それに可変式ガンブレードとレーザーライフルという違いはあるけど、同じ光学系兵器を個人兵装にしている訳だし。
もっとも、もうすぐ新年度で二年生に進級するから今後もクラスメイトでいられるか否かは分かんないけどね。
だけど私達の間には「堺県第二支局配属の特命遊撃士」っていう単なるクラスメイトとは一線を画する強固な絆がある訳だから、何も問題はないんだよ。
「それは良う御座いましたわ、千里さん。私も千里さんには何かと懇意にさせて頂いております故、御一緒出来て光栄で御座いましてよ。」
「私も同じタイミングで昇級出来て喜ばしい限りだよ、フレイアちゃん。同期や同学年の子達に取り残されちゃうのは、もう御免被りたいからね。」
フィンランドの公爵令嬢の気品ある微笑に頭をかいて応じながら、私は失われた時間に埋め合わせがつけられた事を改めて実感したの。
黙示協議会アポカリプスとの戦闘で負った重傷で約二年の歳月を昏睡状態で過ごした事も、その間に同期の友達に階級を追い越されて部下として過ごさざるを得なかった一年近くの出来事も、今更どうこう出来る訳がない。
だけどこうして同期の友達と同じ少佐になれた訳だから、心機一転して頑張っていくしかないよね。
マリナちゃんや英里奈ちゃんみたいに先に少佐へ昇級した子達も、葵ちゃんやフレイアちゃんのように今回のタイミングで昇級出来た子達も、私にとっては大切な友達だよ。
同じ金色の飾緒を遊撃服の右肩に頂く者同士、手を取り合って頑張りたいものだね。