第20章 「友ヶ島沖、空戦開始!特定外来生物を殲滅せよ!」
かくして少佐への昇級を果たして佐官用の合宿研修をミッチリと受講した私達は、本土への帰路の途中で特定外来生物駆除作戦に動員される事になったんだ。
言うなれば此度の駆除作戦は、合宿研修の総仕上げにして少佐としての私達の初陣って事になる訳だよ。
普段は堺県第二支局配属の特命遊撃士として軍務に従事している私達だけど、今回は一時的に和歌山支局の指揮下に入る事になったんだ。
何しろ私達が乗っている紀ノ国っていう輸送艦は和歌山支局管轄の友ヶ島要塞の所属だし、その艦長であらせられる新宮沖美大佐も和歌山支局の御方だからね。
まあ、どの支局の指揮下に入ろうと私達のやる事には何も変わりはないんだよ。
さっき私は紀ノ国の事を輸送艦と呼んだけれど、それはあくまでも平時の運用方法を言ったまでの事。
その本来の設計目的は単なるフェリー紛いの輸送船ではなく、強力な揚陸能力と高度な指揮通信能力とを兼ね備えた強襲揚陸艦なの。
私が以前に哨戒パトロールに参加させて頂いた時に乗った武装ヘリと同じ荒鷲一型だって離着陸が出来るし、ミサイルや対空砲だって積んでいるから充分な戦闘力を持っているんだよ。
もっとも、今回の駆除作戦で荒鷲一型の占める役割はそう大きくはないだろうね。
荒鷲一型に搭載されている三十ミリ機関砲や空対空誘導弾は確かに強力だけど、群れを成して素早く動くローペンよりは海を進む巨大怪獣と戦った方がシックリ来るよね。
敵が群れを成して襲い掛かって来るなら、こちらも手数の多い方が良い。
敵が高速移動を持ち味とするなら、こちらも小回りが利く方が良い。
そこで今回の駆除作戦では、紀ノ国に航空戦力として搭載されている軍用エアバイクに白羽の矢が立ったって訳。
新米少佐の私が言うのもおこがましい限りだけど、これは確かにベストな判断だよ。
軍用エアバイクなら機銃とミサイルも搭載されているから簡易戦闘機としても運用出来るし、邪魔っけな屋根も無いから私達の個人兵装も思う存分に運用出来るからね。
流石に強襲揚陸艦・紀ノ国で帰路についていた特命遊撃士の全員が乗る分のエアバイクはないから、射撃能力に高い適性を持つ人員が優先して選ばれ、選外の子達は交代要員のような予備戦力やサポートに回されたけどね。
当然と言うべき事だけど、レーザーライフルを扱う私とスラッシュボウガンを個人兵装に選んだ覚葉ちゃんは真っ先に選抜されたんだ。
「和歌山支局所属の特命遊撃士として改めてよろしく頼むよ、千里ちゃん。あの特定外来生物の奴等を、一羽も残さずに焼き鳥にしてやならくちゃ。」
「その意気だよ、覚葉ちゃん。この強襲揚陸艦・紀ノ国にいる特命遊撃士は近畿ブロックの各支局から集められた人員だから、広い意味の連合軍だね。こんな特別な形で少佐としての最初の軍務を行なえるなんて、軍人として誉れの極みだよ。」
合宿研修で出来た友達同士でガッチリ握手を交わすと、私達選抜メンバーは甲板へと歩みを進ませたの。
どんな敵でも、来るなら来いだよ。
強襲揚陸艦の甲板には、私達が本作戦で命を預ける軍用エアバイクがズラッと並んで列をなしていたの。
その質実剛健で機能美に満ちた見ていると、否応なしに気が引き締まるよ。
「よし、それでは行きますか!」
肥大化した脳松果体が発現してくれている特殊能力「サイフォース」も、静脈注射で投与された生体強化ナノマシンと強化薬物によって細胞レベルで戦闘用に改造された身体も、普段と変わらぬ良好なコンディションだね。
後はこうして気合いを入れればバッチリだよ。
そして個人兵装として中一の頃から愛用しているレーザーライフルの最終チェックを行えば、後は補助AIも搭載された多機能ヘルメットを被るだけ。
ハンドルの感触もシートの座り心地も、数日前の演習のタイミングで身体に叩き込んだ通りだよ。
普段のシフトの巡回パトロールで乗っている武装オートバイと同じ要領でエンジンをふかせば、推進力が下向きに生じているのが自ずと伝わってくるね。
「この吹田千里少佐、こうして和歌山支局の皆様方と共闘する事が出来て光栄であります。それでは、行って参ります!」
「どうぞ御武運を、吹田千里少佐!」
そうしてクルーのお姉さんに敬礼を示した私は、騎乗した機体を浮上させ、戦友達と共に大空へ舞い上がったんだ。
自然豊かな和歌山に迫る南方の悪魔め、精々首を洗って待っていなよ。





