第19章 「南方から迫る悪魔の群れ、特定外来生物ローペン殲滅指令」
こうして覚葉ちゃん達を始めとする和歌山支局の子達とも心温まる交流を育んだ訳なのだけれども、始まりがあれば終わりもあるのがこの世の必然なんだよね。
要するに、この友ヶ島要塞での合宿研修も今日で最終日になっちゃったんだよ。
惜しいと言えば惜しいけど、こればかりは流石に仕方ないよね。
そりゃ確かに、この場で休暇を申請して保養所という体裁で宿泊する事も出来なくはないよ。
だけど美鷺ちゃん達や覚葉ちゃん達が帰っちゃった中で一人だけ残っても意味がないし、私だって少佐階級の特命遊撃士として一日も早く通常シフトに入りたいもん。
同期の生駒英里奈ちゃんや可愛い部下である西来天乃中尉は間違いなく喜んでくれるけど、個人的に反応を見てみたいのは枚方京花ちゃんなんだよね。
京花ちゃんったら面白がって、平時であっても私に向かって「異存はないな、吹田千里准佐?」って呼び掛けてくるんだもの。
その度に私は「はっ!承知しました、枚方京花少佐!」って具合に、捧げ銃の姿勢を取らざるを得ないんだよ。
同期入隊で学籍が同学年なら平時でのタメ口は黙認されているけど、階級付きで呼ばれたらそれに合わせた反応になってしまうのが軍人たる者の宿命だからね。
こうして遊撃服の右肩に金色の飾緒を頂いた私を前にして、京花ちゃんはどう反応するだろうか。
もしも今までのノリで「復唱せよ、吹田千里准佐!」って具合に平時のタイミングで言って来たら、「残念、京花ちゃん!今の私も少佐なんだよ!」って返してみたいなぁ。
この金色に輝く飾緒を見せびらかしてね。
まあ、そんな事は十中八九ないとは思うけど。
あれで京花ちゃんも、結構しっかりしているし。
しかしながら、古人曰く「好事魔多し」。
世の中っていうのは、なかなか一筋縄ではいかない物だよ。
帰路について僅か数十分後、私達の乗った輸送艦にスクランブル出動が要請されたんだ。
「えっ!またしても特定外来生物が!?」
ミックスおかきを肴にカップ酒を楽しんでいた私にとっては、まさしく寝耳に水だったね。
私も大劇場に現れた吸血チュパカブラだとか公園に現れたティクバランだとか、特定外来生物の駆除作戦には人並みに参加していたつもりだけれども、まさか合宿研修の帰り道にも出くわすだなんて思ってもみなかったよ。
艦長である新宮沖美大佐直々の通達によれば、大型鳥類のローペンが群れを成して和歌山県近海に迫っているんだって。
パプアニューギニアを主な生息圏とするローペンは翼長数メートルに達する巨体を誇る肉食性の怪鳥で、その始末の悪さから現地の人々からも蛇蝎の如く忌み嫌われているんだ。
肉食獣みたいに鋭い鉤爪と強靭な嘴の中に生え揃った鋭い牙が危ないのは勿論だけれども、厄介なのは知能と飛行能力の高さだね。
渡り鳥みたいに群れを成して飛行し、集団で組織的な狩りを行う事も出来ちゃうんだからさ。
そんなローペンが主に襲うのは魚類や小型の哺乳類だけど、もっと大きな獲物を狙う事だってあるの。
要するに、海上ならイルカや小型のクジラといった哺乳類、陸上なら牛馬や人間だね。
昔のパプワニューギニアでは、ローペンの群れによって集落が滅茶苦茶にされる凄惨な獣害事件も何度か起きていたらしいね。
大正初期の日本で発生した「三毛別羆事件」も悲惨さでは負けてないけど、群れを成して空から襲い掛かるローペンは一層に始末が悪いよ。
要するにローペンは、人畜にとって極めて危険な脅威となり得る害獣って事だね。
このスクランブル要請の入った艦内に緊張が走ったのは、言うまでもない事だよ。
「全国的に春を迎えた日本は気温も天候も至って安定しているからね、フレイアちゃん。温暖で過ごしやすい気候と豊富な食料を求めて、この日本に飛来したって寸法かな?」
「ううむ…然りですわね、葵さん。潤沢な海産物に恵まれていて緑も豊かな和歌山市周辺は、ローペンにしてみれば格好の狩り場という事で御座いますわね。全く、忌々しい限りですわ!」
御子柴高校の制服である赤いブレザーとダークブラウンのミニスカを着た二人組も、すっかりシリアスムードだったよ。
既に可変式ガンブレードとエネルギーランサーを携えているし、これで何時でも戦えるね。
だけどそれは、この紀ノ国という艦に乗る特命遊撃士なら誰だって同じ事だよ。
「どうやら今回のヤマが、少佐としての私達の初陣って事になりそうだな…おい、千の字!功を焦って、あんまり熱くなり過ぎるんじゃねえぞ!」
「分かってるって、美鷺ちゃん!佐官としての私達のキャリアはまだまだこれからなんだから、ローペン相手に足元をすくわれる訳にはいかないよ!いけ好かない特定外来生物の奴等に、少佐に昇級した私達の強さと恐ろしさを存分に見せ付けてやろうじゃないの!」
そんな私も個人兵装であるレーザーライフルを組み上げて、万全の臨戦態勢だよ。
愛銃の安全装置はそのままだけど、心の引き金にはシッカリと指をかけているんだ。





