プロローグ第2章 「栄誉を得た少女達の休日、研修合宿の始動」
そうして喜びを分かち合う私と英里奈ちゃんの元に、もう一人の人影が歩み寄って来たんだ。
ローファー型戦闘シューズの靴音を鳴らし、右側頭部で結い上げた黒いサイドテールを揺らしながらね。
「そうか…受かったか、ちさ!そいつは何よりだ。」
「あっ、マリナちゃん!来てくれたの?」
長く伸ばした前髪で右側を隠した切れ長の赤い瞳から注がれる視線に、私はサッと振り返ったの。
この右サイドテールに長い前髪で覆われた右目という右半身に特徴が集中した少女士官は和歌浦マリナ少佐と言って、私や英里奈ちゃんの同期の友達なんだ。
個人兵装に選んだ大型拳銃の腕前は百発百中で、氷で出来たカミソリを思わせるソリッドなクールビューティー。
これだけ聞くと冷酷非情な鉄面皮に思われちゃうかも知れないけど、結構気さくで情に厚いんだよ。
今日だって、こうして私の合格発表に立ち会ってくれたもんね。
「ああ、お京とのツーリングで借りた地平嵐を返却する用もあったんだけど、やっぱり気になってね。しかし、これで吹田千里准佐と呼べる日もあと僅かか…そう考えると、ちさも名残惜しくはならないか?」
「へっ…変な事言わないでよ、マリナちゃん!京花ちゃんやマリナちゃんが面白半分で呼ぶ度に、私はこのレーザーライフルで捧げ銃の姿勢を取る羽目になったんだからね!」
個人兵装を収納したガンケースを示しながら、私は膨れっ面で抗議したの。
同期の友達の部下という立場に甘んじているのが辛いから昇級試験を受けたってのに、こんな事を言ってくるんだからね。
全く困っちゃうよ。
茶化してくるマリナちゃんに私がむくれていた、正しくその時だったの。
「そういえば、マリナさん…その京花さんとは御一緒ではなかったのですか?此方には御見えになっていないようで御座いますが。」
「あっ、ホントだ!京花ちゃん来てないじゃない!」
良いタイミングだよ、英里奈ちゃん!
空気が険悪になるの防ぐ為の、絶妙な話題の切り替えだね。
レーザーブレードを個人兵装に選んだ枚方京花少佐は、左側頭部でサイドテールに結い上げた青髪も爽やかな主人公気質の快活な女の子で、マリナちゃんや英里奈ちゃんと同様に私の同期生でもあるんだ。
普段は御子柴高校一年B組のクラスメイトであるマリナちゃんと一緒にシフト入りする事が多いんだけど、支局のエントランスをザッと見た限りでは姿を確認出来ないね。
「お京なら、手苅丘美鷺准佐と一緒に銀座通りの24時間営業の居酒屋で一杯やってるそうだよ。合格したなら祝杯で、駄目なら残念会って寸法だね。」
「成る程…確かに、美鷺ちゃんも昇級試験受けてたもんね。」
京花ちゃんやマリナちゃんと同じ御子柴高等学校1年B組在籍の手苅丘美鷺准佐は、個人兵装に選んだ西洋式サーベルを用いてのフェンシング風のファイティングスタイルが得意な少女剣士なんだ。
騎士みたいな戦い方なのに昔の番長漫画のスケバンみたいな蓮っ葉な口調をする変わった子だけど、同じ剣士である京花ちゃんとは馬が合うんだよ。
「美鷺ちゃん、受かってるかな…」
試しに聞いてみようと軍用スマホを取り出したけど、その必要はなかったね。
だって京花ちゃんの方から、美鷺ちゃんと二人で笑顔で飲んでる自撮り画像が送信してくるんだもの。
しかも御丁寧に、「祝杯だと焼酎が進むね!」という一行コメントまで添えてだよ。
「そっか、美鷺ちゃんも無事に合格出来たか…これは研修合宿も楽しくなりそうだよ。」
軍用スマホを握り締めながら、私は昇級試験の合格に伴って内定した春休みの予定に胸を躍らせたんだ。
佐官に昇級を果たした特命遊撃士は一週間の研修合宿に行くんだけど、我が堺県第二支局を始めとする近畿ブロックの佐官研修生は、和歌山県に位置する友ヶ島要塞の研修センターを使うのが慣例なんだ。
この友ヶ島要塞は、人類防衛機構の前身である大日本帝国軍が他国からの侵略を防ぐ目的で建設した基地だから、歴史的にも重要な要塞なんだよね。
そんな歴史ある友ヶ島要塞に設けられた研修センターには、人類防衛機構関係者を対象にした保養施設という側面もあって、マリンスポーツを始めとするアクティビティや天然温泉等を思う存分に楽しむ事が出来るんだよ。
水着を着て海水浴と洒落込んだり、日本酒を飲みながら露天風呂に浸かったり。
う~ん、今から楽しみだなぁ…