第14章 「酒席の話題はミリタリープラモ」
昼間に覚葉ちゃんと一緒に臨んだ演習では、お互いに新戦法の糸口を掴む事が出来たみたいで何よりだよ。
それに美鷺ちゃん達も、和歌山支局の子達とまずまず仲良くなれたみたい。
こうして良い感じに親睦を深められた事もあり、この夜の晩酌はちょっとした打ち上げのような意味合いも生じてきたんだ。
「へえ…覚葉ちゃんって旧軍贔屓とは聞いていたけど、軍歌だけじゃなくて兵器類も好きなんだね。この海戦中の紀伊を再現したジオラマなんか、海面の表現も艦船の処理も丁寧な物だよ…」
自販機で買ったストロングタイプの缶チューハイの喉越しを楽しみながら、私は差し出されたスマホの画面を指差したの。
呉工廠で造船された超大和型戦艦の一番艦である紀伊は第二次大戦末期の連合艦隊の主力艦として大いに活躍し、数回に渡る近代化改修を施された事で大戦後も長らく国防の為に活躍した歴史ある戦艦だから、様々な模型メーカーから各種のキットが発売されていて人気があるんだよね。
流石に大日本帝国海軍の旗艦として長らく人々に親しまれてきた長門や呉で記念艦として保存されている大和までとは言わないけど、それでも模型雑誌やミリタリー雑誌にはよく取り上げられているし、通販サイトにおけるミリタリープラモの稼ぎ頭の一角である事には間違いないよ。
だから模型雑誌をパラ見したりネットで検索したりすればクオリティの高い作例にはお目にかかれるんだけど、覚葉ちゃんが趣味で組んだという戦艦紀伊のウォーターラインモデルはそれらに決して引けを取らない高水準の出来栄えだったんだ。
エッチングパーツのような市販のディテールアップパーツは勿論だけど、塗装だの筋彫りだのも丁寧に仕上げてあるじゃない。
何も考えずに貼ったら舷側との繋がりがアンバランスになる木甲板シートだけど、シートをギリギリまで薄くしたり甲板側を底下げしたりと、本当に良い仕事がしてあるね。
そこには並々ならぬ集中力と情熱とが、ハッキリと見て取れたんだよ。
「ありがとう、千里ちゃん。自慢じゃないけど砲身は真鍮パイプに交換したし、浮き輪のモールドも伸ばしランナーの自作パーツに替えてディテールアップしたんだ。」
「こだわってるねぇ、覚葉ちゃん。その艦船モデルへの拘りは、私も見習いたいものだよ。」
私としても、大好きな萌えミリアニメの「アドミラル・メートヒェン~愛、死にたまう事なかれ」に出てくる日露戦争期の艦船なら是非とも作りたいけど、キット化されるのは第二次大戦期の艦船が多いんだよね。
「だけど艦船モデルだけじゃなくて、戦車や戦闘機のプラモも作ってるんだよ。こないだはヨーロッパ戦線で枢軸国の爆撃に活躍した富嶽も組んだんだ。サイズが大きくてちょっと家には飾れないから、行きつけの模型店に寄贈してショーウインドに飾って貰ってるけど。」
「おっ!そう言う発言が口を付いて出てくるなんて、流石はモデラーだね。私なんか最後に組んだのは、ハイパーグレードシリーズで出ていたマスカー騎士シュバルツだよ。それもゲート処理しかしてないパチ組みだもの。」
同じプラモデルとして玩具店や家電量販店で取り扱われているけど、ランナー毎の色分けやスナップフィット仕様の徹底によって塗装も接着も不要で「組み立て式のアクションフィギュア」として割り切ればかなり気楽に楽しめるハイパーグレードシリーズと、塗装や接着は大前提として海外製キットだとパーツの合いの修正まで自力で行う必要に迫られるミリタリー系のスケールモデルとでは、色々と違ってくると思うんだよね。
私みたいに好きな特撮ヒーローの可動モデルを摘み食いしているライト層からすると、覚葉ちゃんみたいな気合いの入ったモデラーを見ていると「同列で語ったら流石に申し訳ないかな…」っていう具合に気が引けちゃうんだよ。
「楽しく組めているなら良い事だと思うよ、千里ちゃん。最近のハイパーグレードシリーズとか、本当に出来が良いもんね。『機甲戦団レギオン』の初代ガンボイなんか、新しいキットが出る度に可動範囲も組みやすさも進化しているもん。」
「分かってくれて助かるよ、覚葉ちゃん。最近じゃ工具もいらないタッチゲート式のもある訳だし、ユーザーフレンドリーなのはライト層には有り難いね。」
だからこそ、覚葉ちゃんの傲慢さのない気さくな姿勢には大いに助けられたんだ。
後で艦船系のプラモデルで、オススメのキットを教えて貰おうかな。
出来れば日露戦争の時のが良いんだけど。





