第13章 「銃声轟く演習場で掴んだ極意」
しかしながら、この私のドリルスピンの真骨頂はまだまだこれからだよ。
さっきの覚葉ちゃんみたいにね!
「おやおや、目でも回しちゃったかな?それじゃ次は御眠の時間だよ!撃ち方、始め!」
不規則な高速移動に翻弄されただけでなく、懐に入りこまれた事で同士討ちを警戒して手が出せなくなってしまった。
綿密に組まれた陣形が、逆に仇になっちゃったね。
そうして搭載AIのコンディションを乱されて動揺した戦闘ドローンは、最早このレーザーライフルの格好の餌食でしかなかったの。
そりゃもう、当たるを幸いに片っ端からカトンボみたいに叩き落としてやったんだから。
「成る程…それなら私も!」
そして私の戦闘スタイルは、覚葉ちゃんにも良い閃きを与えたみたい。
何しろ空中移動のやり方を、今のタイミングに至って大きく変えたのだからね。
「むっ…たあっ!」
ローファー型戦闘シューズの靴裏によるドロップキックを受け、無機質な機体がグラッと揺れて高度を下げていく。
そうして無力化した戦闘ドローンの機体を飛び石渡りの要領で蹴り上げるまでは、さっきまでと同じだったの。
だけど、そこから先が大きく違っていたんだ。
「こうして真上を見据える姿勢を心掛けて…たあっ!」
何と次の瞬間には、覚葉ちゃんもキリモミ回転で大空を舞っていたんだよ。
見様見真似の拙さか、或いはグッと前方へ突き出したスラッシュボウガンが空気抵抗を生み出しているのか。
その理由までは定かじゃないけど、覚葉ちゃんの錐揉み回転は移動速度も回転速度も私に比べたら残念ながら見劣りする物だったの。
しかしながら、それはあくまでも比較の問題でしかないんだ。
覚葉ちゃんのキリモミ回転移動だって、実戦で充分に役立つ実用的なレベルなんだよ。
しかもスラッシュボウガンを前方に突き出しているから、左右の刃から衝撃波まで生じている訳だからね。
あの衝撃波を受けた敵は恐らく、剥き出しにしたミキサーの刃で切り刻まれるような末路を辿るんだよなぁ。
私がドリルみたいに敵を穿って突破口を開き、二の矢として回転した覚葉ちゃんが敵をズタズタに切り刻む。
そういう連携攻撃も面白そうだよ。
だけど今の相手は群れを成す戦闘ドローンな訳だから、連携攻撃もそれに見合った物にしなくちゃいけないね。
そして今みたいな空中での連携攻撃をする場合、私と覚葉ちゃんとの間にある速度差が課題になる訳で…
「んっ、そうか…それなら!」
着想を得てからの私の行動は、我ながらスピーディーだったね。
「うおりゃっ!たあっ!」
手始めに倒したばかりの戦闘ドローンの機体を両足で蹴り上げ、咄嗟に方向を転換したの。
さっき覚葉ちゃんが見せてくれた、飛び石渡り式の空中移動。
その応用が、早速役立ったね。
「とうっ!」
そうして助走をつける形で、覚葉ちゃんが戦っている宙域に突っ込んでいったんだ。
戦闘ドローンを蹴り上げた反動も手伝って、今の私は回転速度も移動速度も先程までの水準を明らかに上回っていたの。
だけど今からやろうとしている事に比べたら、この程度の上昇率なんか誤差みたいな物だよ。
まあ、それには覚葉ちゃんの協力が必要不可欠なんだけどね。
「こちらは吹田千里少佐であります!根来覚葉少佐、貴官の御協力を要請致します!」
「承知致しました、吹田千里少佐!根来覚葉少佐、準備よし!」
打てば響く返事というのは、正しくこの事だよ。
そして取った行動も、実にスピーディーで手際良かったね。
「たっ!」
手頃な戦闘ドローンを蹴り上げて、更なる飛翔と方向転換も果たしたじゃないの。
それなら私も、やるべき事に着手しなきゃね。
「とうっ!」
手頃な戦闘ドローンを撃破して、墜落しかかる機体を蹴り上げて。
さっきの覚葉ちゃんの動きの忠実な再現だよね、今の所は。
だけど、ここからが肝心なんだ。
「はっ!」
「やあっ!」
こうしてドローンを蹴り上げて運動エネルギーの確保と軌道修正を行った私と覚葉ちゃんは、激突寸前のタイミングで互いの足裏を思い切り蹴り上げたんだ。
「おおっ!よし!」
その効果は素晴らしかったよ。
回転速度も移動速度も、何もかも先程までとは段違いなの。
お陰で戦闘ドローンの後ろを取ったり陣形を乱したりと、もう面白いったらありゃしないよ。
こうして連携攻撃を盛り込むと、今までとは違った手札を切れるようになるから堪んないよね。
「成る程…それなら、あの手があるか…」
ハンズフリーイヤホンに覚葉ちゃんの独り言が入電したのは、私が高速回転で翻弄しながら戦闘ドローンを狩りまくっていた真っ最中のタイミングだったんだ。
この時の私は、覚葉ちゃんの独り言の趣旨を「互いに足裏を蹴り合う事で可能となる空中での方向転換の効率化」だとしか考えていなかったの。
だけどそれは所詮、私の浅はかさ。
覚葉ちゃんは、もっと凄い事を考えていたんだ。
そうして全ての戦闘ドローンを撃墜した頃には、私と覚葉ちゃんには見事な連帯感と仲間意識が形成されていたんだ。
「凄いじゃない、覚葉ちゃん!あの飛び石移動ったら見事な物だよ!」
「千里ちゃんこそ…あれが千里ちゃん御得意の錐揉み殺法だね。」
気付けば私達二人は、互いの名前をちゃん付けで呼び合い、気さくにタメ口を叩き合う間柄になっていたの。
肉体言語とはちょっと違うかも知れないけど、演習で身体を動かし合いながら育み合う絆ってのも良い物だよ。





