第12章 「回転せよ、吹田千里少佐!」
とはいえ、そんな悠長な事を言ってばかりもいられないよ。
こうして初手の標的を粗方片付けた以上は、そう遠からず第二陣がやって来る訳だからね。
そして今から始まる後半戦から、私と覚葉ちゃんは本格的に連携攻撃の訓練に勤しむんだ。
さっきまでのは、あくまでも肩慣らしのウォーミングアップ。
これからが本番であり正念場だよ。
詰まんないわだかまりが残るのを回避出来た訳だから、命中率も反応速度も引き分けに持ち込めたのは何よりだったね。
「いよいよでありますね、根来覚葉少佐…どうぞ御武運を!」
「御心遣い痛み入ります、吹田千里少佐!」
そうして第一陣の残存戦力を軽く捻り潰した私達は、第二陣として迫りくる戦闘ドローンの群れに挑んだんだ。
狙いは勿論、今回の合同演習の主目的である連携攻撃の確立と新必殺技の着想だよ。
そんな私達二人のうちで最初に動いたのは、和歌山支局の覚葉ちゃんだったの。
「はあっ!」
すっくと腰を上げて曲乗り姿勢で軍用オートバイを転がしたかと思ったら、その靭やかな肢体は次の瞬間には空中に躍り上がっていたんだ。
跳び箱のロイター板代わりに地平嵐の車体を蹴り上げたとはとても思えないような、実に静かで無駄のない跳躍だったよ。
「撃ち方、始め!」
そうして腹這いの姿勢で綺麗な放物線を描きながら、滞空時間を存分に活かして正確に敵を射抜く。
中距離射撃と近接戦を得意とするスラッシュボウガンの持ち味を存分に活かした、非の打ち所がない見事な戦闘スタイルだね。
だけど覚葉ちゃんの真骨頂は、まだまだこれからなんだよ。
「一つ…二つ!それから三つ!」
何と覚葉ちゃんは、中枢を撃たれて墜落しつつあった戦闘ドローンを蹴り上げる事で更なる飛翔をやってのけていたんだ。
そうして標的を射落としたら、それを次の足場として再び飛翔する。
まるで飛び石みたいなトリッキーな戦闘スタイルには、私も流石に脱帽だよ。
「おおっ、やっる〜っ!凄いじゃないの、覚葉ちゃん!」
こうしてレーザーライフルを構えていなかったら、拍手位はしていたかもね。
とはいえ感心してばかりもいられないよ。
何しろ私は単なる見学者じゃなくて、こうして同じ演習に参加している当事者なんだからね。
あんぐりと口を開けて見てるだけで終わっちゃったら、防人乙女の名が廃るって物だよ。
「いよ〜しっ!カッコいい所見せちゃうよ、この私も!」
そうして頃合いを見計らった私は、跳躍の動作へ移ったんだ。
ヘルメットの脳波コントロールシステムに操縦を任せた地平嵐を足場にしてね。
「たあっ!」
バイクのステップを軽く蹴り上げ、サッと空中に舞い上がる。
そうして腹這いの姿勢でレーザーライフルを構えると、私は足首を基点にして時計回りに身体をギリギリと捻ったんだ。
「うおおっ!」
そのまま回転速度を増していき、高速の切りもみ回転で敵を目指して真っ直ぐ突っ込んでいく。
この荒技こそ、私こと吹田千里少佐が得意とする「レーザーライフル・ドリルスピン」だよ。
年明けに武装蜂起した黙示協議会アポカリプス残党への掃討作戦においても、この荒技は大いに役立ったんだ。
あの時は確か、審判獣という比較的大きな標的が一体だけという状況だったっけ。
蛇型審判獣の巴蛇ヒュドラは、本当に厄介な敵だったよ。
プラズマ光弾に小型ミサイル、果ては火炎放射機。
様々な武装を次から次へと繰り出してくるんだからね。
だけどこのドリルスピンは、今みたいな多数の標的を相手にする時にも役立つんだよ。
「アッハハ!どうかな?普段より多目に回しているよ!」
高速でキリモミ回転をしている事で、何かのスイッチが入ったのか。
私ったら随分とテンションが上がっちゃったね。
こんな正月の演芸番組に出てくる傘回しの芸人の口上みたいな事を言っちゃって。
そんな私の狙い通り、戦闘ドローンが動揺を始めているよ。
さっきまでは間断なく続けられていた機銃掃射も、今じゃすっかり及び腰じゃない。
まあ、それも仕方ないかな。
キリモミ回転を続けながら高速移動する標的には照準を合わせにくいし、時には自分達のスレスレにまで接近してくるので同士討ちも気にしなくちゃいけないもん。
戦闘ドローン達に搭載されたAIの混乱が、手に取るように分かるよ。
AIには予測困難な非合理的な不規則性は、さしずめ人間ならではの持ち味と言えるかな。





