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第8章 「英霊となった戦友への追憶」

挿絵の画像を作成する際には、ももいろね様の「ももいろね式女美少女メーカー」を使用させて頂きました。

 そんな具合に私と美鷺ちゃんの二人が差し向かいで一献傾けていた時。

 午後の穏やかな日差しの照らす大食堂に新しい人影が現れたんだ。

挿絵(By みてみん)

「どうやら我等が郷里である紀州の地酒は貴官の御眼鏡に適ったようでありますね、吹田千里少佐。この紀州の水が育んだ地酒を他県の方に御気に召して頂けて、和歌山支局所属の小職と致しましても喜ばしい限りであります。」

 生真面目なアップスタイルに結った黒髪を揺らしながら現れた人影は、私や美鷺ちゃんと同様に一分の隙もない遊撃服に袖を通していたの。

 この子は根来覚葉(ねごろかくは)ちゃんと言って、和歌山支局所属の特命遊撃士なの。

 この友ヶ島要塞へ宿泊研修に来ている事からも分かるだろうけど、私達と同様に今春のタイミングで少佐に昇級したんだ。

 右肩に頂いた真新しい飾緒の金色の輝きが、目にも鮮やかだよ。

「おおっ!これは根来覚葉少佐!御疲れ様であります!」

「御疲れ様です、吹田千里少佐。御見知り置き頂けて喜ばしい限りであります。」

 戦闘シューズの踵を鳴らして右拳を胸に翳す私に、間髪入れずに同様の姿勢で答礼を行う覚葉ちゃん。

 人類防衛機構式の敬礼姿勢の洗礼された美しさは、全国共通だね。

「昨日は見事な御活躍でありましたね、根来覚葉少佐。『抜刀隊』の朗々たる歌唱には、自分も思わず陶然と致しましたよ。」

「恐悦至極に存じます、吹田千里少佐。しかし貴官の『一列談判』の親しみやすい歌声も、やはり見事の一言であります。」

 アップスタイルという生真面目な髪型や厳格な口調といった諸々のイメージに違わず、覚葉ちゃんは軍人気質の子なんだよね。

 私も他の友達の部下として振る舞う時期が長くて軍人口調が染み付いちゃっているから、お互いに妙に波長が合っちゃったの。

 特に昨日のカラオケ大会では、二人で軍歌メドレーなんかやっちゃったんだ。

 他の子達がアイドルのJポップやら深夜アニメの主題歌やらを無難に歌っているのを尻目に、私と覚葉ちゃんは「父よあなたは強かった」とか「空の勇士」とかを歌っていた訳だから、相当に目立っていただろうな。

「それにアムール戦争を題材とする『我が妻は護国の乙女』を締めの一曲として貴官が歌われた時には、小職も貰い泣きを禁じえませんでしたよ。聞けば貴官の御友人である枚方京花少佐は、『我が妻は護国の乙女』のモデルである大日本帝国女子特務戦隊所属の園里香上級大佐殿の御血縁であらせられるとか。御友人の御身内の方ともなりますと、やはり特別な思いが去来するのは必然かと存じ上げます。」

「仰る通りであります、根来覚葉少佐。何しろ資料写真や記録映像で伺える生前の園里香上級大佐殿の御尊顔は、曾孫である枚方京花少佐に瓜二つでありますからね。歌詞を口ずさめば自ずと友人の顔が脳裏を過ぎってしまい、涙を禁じえぬのです。」

 軽く頭を掻きながら覚葉ちゃんに応じた私だけど、この返事には意図的に省いた所があるんだよね。

 それと言うのも、私は生前の園里香上級大佐の姿も声も直接見聞きしているんだ。


 運命の悪戯とでも言うべきなのか、まだ十代だった頃の園里香上級大佐と曾孫である京花ちゃんの二人がタイムスリップで入れ替わっちゃうという大事件が起きちゃったの。

 要するに、消えた京花ちゃんの身代わりとして若き日の園里香上級大佐が現代に現れたって事だね。

 これと同様に京花ちゃんも、曾御祖母様が私達と同年代の少女だった修文四年の時代にタイムスリップしちゃったらしいの。

 そこで元の時代に帰還出来る目処が立つまで、入れ替わった曾祖母と曾孫は御互いに成り済まして生活する事を余儀なくされたんだ。

 こんなの、まるで「二人の王子」みたいだね。

 幾ら曾祖母と曾孫で血縁関係があるとはいえ、大正生まれの園里香上級大佐に現代っ子の京花ちゃんを演じて貰うのは流石に骨が折れたよ。

 幾ら人類防衛機構が大日本帝国陸軍女子特務戦隊の後継組織とはいえ、半世紀を優に越える年月の隔たりは大きい訳だからね。

 法制度やら常識やらの違いからジェネレーションギャップやカルチャーショックに陥るのはしょっちゅうだったし、其の後の去就を知られたら歴史が変わる恐れもある訳だし、何かと気苦労が多かった事は否定出来ないなぁ。

 だけど粒子加速器を応用する形で意図的に時空を繋げる目処が立った時には、ホッとした反面で名残惜しくなったんだよね。

 その頃には私達は、お互いの事を「千里ちゃん」とか「里香ちゃん」という具合に気安く呼び合える間柄にまでなれていたんだ。

 曾孫の京花ちゃんと入れ替わるようにして元の時代に帰っていった里香ちゃんが其の後にどうなるのかは、私も事前にある程度までは知っていたの。

 異次元から現れた珪素生命体を退けて地球を救った後も、里香ちゃんは軍に留まって戦い続けた。

 それは珪素戦争で戦死したり除隊して民間人になった戦友達の分まで戦い続けようという、里香ちゃんなりの責任感の現れだったんだ。

 そんな里香ちゃんの最後の戦いとなったのが、中華王朝北部を主戦場とするアムール戦争だったの。

 清朝皇室の末裔である愛新覚羅紅蘭初代女王陛下を擁して国際社会との協調を目指す立憲君主制国家の中華王朝と、珪素戦争の時に壊滅したマルクス主義を掲げる旧体制派の残党が結集したテロ組織の紅露共栄軍。

 この両者の内戦に人類解放戦線は中華王朝正規軍を支援する立場で参戦し、里香ちゃんの所属する大日本帝国陸軍女子特務戦隊が主力部隊という形で派兵されたんだ。

 里香ちゃんの所属する大日本帝国陸軍女子特務戦隊は司馬花琳(しばかりん)上将軍の率いる中華王朝正規軍とも見事な連携を見せ、危険なテロリスト共を各地で駆逐していったの。

 そうしてアムール川流域を主戦場とする軍事衝突は中華王朝正規軍と大日本帝国陸軍の連合軍の勝利に終わったんだけど、歓呼の声を上げる人民達の前に堂々と凱旋する将兵達の中に里香ちゃんの姿はなかったんだ。

 投降した紅露共栄軍残党兵の自爆テロから上官を庇い、里香ちゃんは帰らぬ人になってしまった。

 後に京花ちゃんの母方の祖父となる幼子と、陸海軍合同お見合いパーティーで知り合った大日本帝国海軍主計将校の夫を日本に残す形でね。

 その壮絶な戦死は当時の中華王朝の君主である愛新覚羅紅蘭(あいしんかくらこうらん)女王陛下からも惜しまれたそうで、個別で慰霊碑が建立される程だったの。

 戦死や除隊といった様々な経緯で離別していった戦友達の分まで最後まで戦い続けた責任感の強さに、身を挺して上官の命を救った誉れ高き最期。

 それらの諸々の理由から、里香ちゃんは堺県防人神社に祀られた英霊達の中でも特に別格扱いの軍神として沢山の人達から崇敬されているの。

 ほんの少し前までの私も御多分に漏れず、里香ちゃんの事を「軍神として祀られている、大昔の戦争で活躍した偉い軍人さん」という具合に認識していたっけ。

 他の人達と差異点があるとしたら、そこに「友達の御先祖様」って要素が追加付与される位かな。


 だけど、今は違う。

 あの堺県防人神社に英霊として祀られている園里香上級大佐は、私達と同じ時を過ごして笑い合った大切な友達の一人なんだ。

 支局の宿直室で缶ビールと裂きイカを開けながらくっちゃべった事も、マリナちゃんや英里奈ちゃんを交えて麻雀に興じた事も、今でもハッキリ覚えてる。

 私が同期の友達に追いつけとばかりに昇級試験に血道を上げていると打ち明けたら、シッカリ愚痴に付き合ってくれた上に「吹田千里准佐なら、必ず成し遂げられます。」と激励までしてくれたっけ。

 今回の研修を満了したら、昇級の一件を堺県防人神社に報告しなくっちゃね。

 きっと英霊になった里香ちゃんも、私の右襟に輝く金色の飾緒を喜んでくれるはずだよ。

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企画概要はこちら 鋭意執筆がんばり中の作品たち↓ 中長編執筆/ バナー作成/瑞月風花さま
― 新着の感想 ―
責任感のあらわれって、現れだったかなぁ。 いやサイトによっては現れだったり表れだったりどっちなのか……悩みます。 そして、サブタイトルからまさかと思いましたが久しぶりに里香ちゃんの事が話題にのぼりま…
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