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第7章 「三代続けての軍人稼業」

 ウキウキと心を弾ませたり、思わず涙ぐんじゃったり。

 遊撃服の右肩に頂いた真新しい金色の飾緒を見る度に、この有り様だもの。

 我ながら何とも慌ただしいなぁ。

 こんなんじゃ新米佐官だって一目瞭然だし、マリナちゃんや京花ちゃんみたいな先に少佐へ昇級した子達にも笑われちゃうよ。

「まあ、それだけ千の字が今回の昇級を喜んでいるって事だし、この官給の飾緒を喜ばしく感じているのは私も同感だからさ。どうだ、千の字?少佐昇級の祝杯と風呂上がりの一杯も兼ねて、これからサシで飲み交わそうじゃねえか?」

「おっ!それは良い考えだよ、美鷺ちゃん。」

 蓮っ葉なスケバン口調で一見するとキツい印象のある美鷺ちゃんだけど、実はなかなか気が利いて良い子なんだよね。

 もっとも、それは美鷺ちゃんに限った話ではなくって、人類防衛機構に所属している全ての少女士官に言えるんだけど。

 今回の合宿研修で他の支局の特命遊撃士とも顔合わせをしたんだけど、大阪支局の人達も和歌山支局の人達も、みんな良い子達だよ。

 まあ、それも至極当然の事だろうね。

 人類防衛機構が誇る正義と友情の志は、前身である人類解放戦線やその中枢を担った大日本帝国陸軍女子特務戦隊の時代から変わらぬ美徳だよ。

 この誇らしき美徳を次の世代に繋げるためにも、今回こうして少佐に昇級した私達がしっかりやらなくちゃね。

「軍歌の『歩兵の本領』には『酒杯に襟の色移し』って言い回しがあったけど、私達の場合は『酒杯に飾緒の色移し』って所かな?」

「百日祭って言うにはオーバーな話だけどな。まあ、『らしい』と言えば『らしい』言い回しだよ。三世代に渡って軍人稼業を続けていらっしゃる、吹田家御長女の千の字さんならではの言い草ってか!」

 何とも軽口めいた美鷺ちゃんの一言だけど、私には否定出来なかったの。

 何しろ私のお祖母ちゃんは人類解放戦線の楽隊を経て音楽教師になった訳だし、お母さんに至っては今でも特命機動隊の予備役として籍を置いている訳だからさ。

 特にお祖母ちゃんが現役だった頃は、母体となった組織である大日本帝国陸軍女子特務戦隊の面影がかなり残っていた訳だからね。

 そんな先達者達が二人も家族と同居している訳だから、私のボキャブラリーに自衛隊への改組以前の旧日本軍的な要素が入って来るのは致し方ないと思ってくれなくちゃ。

 とはいえ我が吹田家において現役中に佐官に昇級出来たのは、現状だと私一人なんだよね。

 早い話が、お祖母ちゃんやお母さんの代では果たせなかった夢を私の代で見事に成し遂げたって事かな。

 しかしながら、私の夢はまだまだこれからだよ。

 これから先も人類防衛機構へ在籍し続けて、どんどん高みを目指したいね。

 まあ、今は取り敢えず今後の英気を養う為にも美鷺ちゃんと一献傾ける事にしようかな。


 友ヶ島要塞の宿舎に設けられた大食堂には強化ガラスで出来た大窓が設けられていて、眼下に広がる加太湾をパノラマで一望する事が出来るの。

 本州の側から加太湾を一望するだけなら、加太地区の温泉旅館やホテルでも普通に出来るよね。

 だけど友ヶ島の側から加太湾を見ようとしたら、この友ヶ島要塞に行くしか術がないんだよ。

 要するに、こうして加太湾越しに和歌山市加太地区の海岸線を望めるのは人類防衛機構に所属する私達だけだって事。

 そう考えると、自ずとお酒も進むって物だよ。

「さ〜ぁてとっ、熱燗をもう一本つけて貰おうかな?」

「おいおい、千の字!熱燗ばっかり飲み過ぎだろ!これで一体、何本目だよ?」

 空になった御銚子を高々と掲げようとした私の手は、呆れ顔の美鷺ちゃんによって押し留められちゃったの。

「ふへっ?!」

 そうして我に返ってみると、私の前には空になった御銚子の群れがビル街みたいに林立していたんだ。

 この林立具合は、さながら大阪ビジネスパークか東京府の新宿副都心といった感じだね。

「うひゃぁ、我ながら沢山飲んじゃったなぁ…南方熊楠の実家の地酒も、なかなか良い感じだね。」

「全く、良い気なもんだ…カラ酒ばかりやってないで少しは何か胃に入れておけよ、千の字。これじゃバランスが悪いだろ?」

 まるで偏食の激しい我が子を諭す親御さんみたいな口振りだね、美鷺ちゃんも。

 だけど殆ど箸をつけられていないままで原型を留めている紀州金山寺漬や鯨ベーコンを見ていると、流石に私も申し訳無くなっちゃうよ。

 紀州の地酒には紀州の肴が良く似合う。

 そう思って注文したというのにね。

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― 新着の感想 ―
うん、まあね。 彼女達の胃は大丈夫だと思うけどそれでも、ね。 だからと言って不健全な生活をしていい理由にならないしサイフォースやナノマシンによる回復が追いつかないようなコンディションにならないとも限ら…
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