02 施設
私が今いる場所は、秘密裏に活動している研究施設で、表向きは生物研究所となっているらしい。
ニホンに生息する生物の生態を研究する傍ら、裏では非人道的な実験が日々行われている。
私がここに召喚されたのもその一部だ。
召喚実験でこの世界にやってきた人間は、私で3人目らしい。
これから私は、この世界でどう生きていけばよいのだろうか。
1人で唸っていると、白衣の男がきた。
召喚されたときにはいなかった男だ。
「被検体03。時間だ、出ろ。」
「私はセーノだ。数字で呼ぶな」
「日本でその名前は使えない。新しい名前が決まるまでは被検体03だ」
「チッ、クソが」
「ここでは貴様は無力であることを忘れるな。言葉を慎めよ」
魔力が使えず、女である私が暴れても勝てるはずがない。
そもそも、魔法使いは男女関係なく脆いものだ。
「どこへ連れて行く気だ」
「フンッ。お勉強の時間だ」
薄気味悪いニヤケ面だ。
今すぐ火炎魔法でこんがり焼いてやりたい。
私に魔力がなくて命拾いしたな、小僧。
暫く歩くと講義室のような部屋へ着いた。
そこには私より年下であろう少女とサクライがいた。
「おはよう。気分はどうかな?」
「最悪だよ。クソジジィ」
「45歳だ、ジジイと呼ぶにはまだ早いぞ。ともかく、元気で何よりだ。紹介しよう、君と同じ召喚者のステラだ」
「........」
「ほら、挨拶しなさい。教えただろう」
「こ、こんにちは。ステラといいます。14歳です。」
14歳ーー。
ということは9歳下か。
妹もこのくらいだったか。
「ほら、君も。」
「セーノだ」
「よし、それでは好きな席に座るといい」
ステラと名乗る少女はどこか不安そうな顔で再び席に着いた。
隣に座るのは気が引けるので、少し離れた席に座った。
「これから暫くの間、ここでこの世界のことについて学んでもらう。召喚されたときにこの世界についての知識は植え付けられているが、地球人として違和感なく生活していくには不十分だ」
なるほど、つまりこの施設でしばらく生活しなければならないということだ。
魔力が戻るまでの辛抱だ。
大人しくしていよう。
どれくらい月日が経っただろうか、ここでの生活にも少し慣れてきた。
朝起きて、サクライからこの世界での生き方を学ぶ。
それが終わると魔力制御の時間だ。
私はまだ魔力が戻らないので、ステラを見守っている。
この世界では大気中に魔力が流れていないため、制御が難しいらしい。
魔力制御をさせて何を企んでいるのだろうか。
サクライは、召喚に関することの詳細について何も教えてくれない。
誰に対しても優しく、人情深いが何を考えているかわからない。
まるで親みたいだが信用などしていない。
しかし、この世界で生きていくすべを持たない私は、この人に縋るほかない。
また、施設の構造についても少しづつ明らかになってきた。
地上6階、地下32階からなり、私が召喚されたのが最深部の地下32階だ。
居住区と呼ばれる生活区域が地下10階から15階、私は1番下の15階で生活している。
16階から30階までは講義室や実験室、資料室、食堂等がある。
10階より上と31階、32階は立ち入り禁止のようだ。
エレベーターと呼ばれる上下に移動できる乗り物は、認証システムが有り使えないし、階段につながる扉には鍵がかけられている。
地上4階に露出している建物は、恐らく、表向きの生物研究所なのだろう。
特に何が起きるわけでもなく、数日が過ぎた。
しかし、とある日の朝、事件は起きた。
サクライから倉庫の整理を頼まれたので、ステラといっしょに作業をしていると、そいつは突然現れた。
ドゴッ
鈍い音がした。
後ろを振り返ると、私より40センチほどでかい影、2メートル近くはある。
その足元にステラが倒れていた。
「貴様ッ!」
とっさに殴りかかったが、やつの硬い肉体に効くはずもなく、逆に腹を蹴飛ばされた。
「カハッ……!」
「脆いな、この程度とは。1000年に1人の才が聞いて呆れる。」
「なぜ、それを、はぁ、はぁ」
よく見ると、召喚の部屋にいた、変に尖ったフードを被った男だった。
「私を、知っているのか?うぅ……」
うまく呼吸が出来ない。
「君は知らなくて良い。というより、知ることも叶わないだろう。」
「なんだと!お前は、はぁはぁ……誰だ!何故、うっ……私を知っている、はぁ……何が目的だ!」
「威勢だけは良いのだな。知らなくていいと言っただろう、少し黙っておけ。」
私の方に歩み寄ると、そいつはブスッと私の腹に刃物を突き立てた。
「えっ……?」
冷たい刃物が自分の皮膚、肉を通る感覚が伝わる。
腹部の異物感、突然の痛覚に麻痺しているのか、痛みは感じない。
その直後、ドクドクと血が流れると同時に、焼けるような熱さと激しい痛みが襲ってくる。
「ツ……!」
「もし次、どこかで会えたら話してやっても良い。まぁ、生きていたらの話だがな」
そう吐き捨てると、そいつは去っていった。
「うっ……おねぇ……ちゃん」
(ステラだ。よかった、生きてる)
弱々しいステラの声がだんだん遠くなる。
意識が朦朧とする。
(あぁ……死にたくない…………)
ついに私は意識を失った。
少し文字数増やしてみました。
刺されるシーンは自分でピアスの穴を開けたときの感覚を参考にしてみました。
今はもう開ける勇気ありません……