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ざまあみろという目で(セイレン視点)

王城のベッドの中で、ぼんやりと天井を見つめた。

ベッドの四方には薄い膜が張られ、私が隔離されている現実を突き付けてくる。


突如、王城を揺らすようなブーイングが聞こえてきたかと思うと、それを遮るようにキャンベルの歌声が聴こえてくる。

けたたましいブーイングの嵐が、水を打つようにピタッと止んだ。


祈り歌の旋律が肺を癒していく。しつこく続いていた喀血が(おさま)るのが分かった。

この病はどうやら結核なのだそうだ。


(あの女に治してもらうなんて、耐え難い苦痛だわ!!)


思わず耳を塞ぐと、じんわりと咳が堪えられなくなって何度も咳き込み、シーツが血で汚れる。


「ぐっ…うっ…」

両耳を押さえていた震える手が、死にたくない気持ちに負けて、だらんと脱力した。


(悔しい!!許せない!!絶対に許さない!!)


((悔しいんだ。ほっとしたくせに。まあ、これでこの身体でもっと遊べるわね))


(うるさい!!!黙れ!黙れ黙れ黙れ!!!!)


祈り歌が終わると、すっかり身体の怠さが消えている。

治ったのだ。こんなにも簡単に。


(なんて簡単に治るの…なんて簡単に…)


私はぐいっと口元を袖で拭って立ち上がり、敢えていつもより高いヒールを履いてバルコニーへ向かった。

かつかつと鳴らす音をいつぶりに味わうだろう。


(私はこうでなければ)


ヒールが鳴らす一定のリズムが、『私は伯爵令嬢である』という誇りなのである。


雲の切れ間から光がさして、一人の女を照らしている。自然が用意した舞台装置のよう。

よく見れば、それはキャンベルが一礼している姿だった。

民衆は黙り込んでいる。私が歌う時のような歓声はない。ひたすらに静寂が場を支配している。


それをじっと見つめている国王は、まるで眠ってしまったかと思うほどに微動だにしない。

呼吸はしているから生きているのだろう。

完全に意識が飛んでいる。目は開いているのに、視線は交わらない。どこにも視点が定まっていない。


--いや、城の誰もがそうだ。

衛兵も、王太子も、みんなみんな動かず呆けているのか眠っているかのよう。

そして、下で聴いている群衆も。

一様にキャンベルを見上げて固まっている。


私は絶叫に近い声で呼んだ。

「キャンベル・ノイージア!!!!」


まるで一輪の花が風で揺れるようにこちらを振り返った。

一筋の日差しを背にしていて、"聖女"とはこの事かと思うほどの神々しさ。

「…用事が済みましたので、帰りますね」

「待ちなさいよ…」

「待ってどうするのですか?私がいない方が良いのでしょう?聖女様」


頭が沸騰した。歯が砕かれる程に怒りを噛み締める。

「キャンベルッッッ!!!!」


なんという憐みの目で私を見るの。


「これから貴方がどうするのか、この国がどうなるのか、私には微塵も興味がございません。どうぞお好きなように崩壊させてくださいませね」

ペコリとお辞儀をしたキャンベルが「あら」と言って続けた。

「袖に血がついていますわ。そうですわね、聖女は自分の病は治せないのですものね。偽物の私がお役に立ちましたか?…ああ、私は偽物ですから、セイレン様の病は治せないのですものね、どうか()()()()()()()()()()ませね」


酷く影のある笑顔だった。『ざまあみろ』と言っているような目で私を見ている。


「そうそう」と手をポンとさせた。

「この国の人たちは、自分達が健康であることになんら感謝することがありません。セイレン様、貴方もです。その状態が普通だからですわ。私、ずうっと喉を痛めていましたの。でも誰にも理解されない、感謝されない。偽聖女は快適ですわ。歌うことをやめてから、すっかり元通りで清々しい気分です。セイレン様のお陰でですわね。ありがとうございます」

ふんわりとカーテシーをしたかと思うと、すっと立ち上がり

「健康が害された時の気分がお分かりになりまして?」

そう言い置いて、キャンベルは大変歩きやすそうな靴でペタペタと去って行った。

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