聖女の廃止
あれから数日、国民に向けた勝利宣言、王城の修繕、傷付いた兵士達のケアと、聖女が不在の間、病や怪我を負った人たちへの手当てが行われた。
初めはなぜ聖女が歌わないのだと、そんな暴動が予想されたが反して国民は静かにそれを聞き入れた。
"聖女制度の廃止と、医療制度の導入"である。
近隣の国々より医療従事者を集い、少しずつ医療を生活に根付かせ、数年後には医療学校を建ててこの王国から医者を輩出できるようにするのだそうだ。
新しい国王となったルイス様は、毎日忙しそうに激務をこなしている。
死にそうになったのだから、少しくらい休めば良いのに。
それから、私たちには一つ問題があった。
「魔塔に帰りたい?あそこは君の秘密基地だからな、自由に帰っても良いが…」
「なんです?」
「僕も一緒でなければ嫌だ」
と言ってむくれた。
「…ルイス様が無事で何よりでした。それで気持ちが昂ってしまって好きだなどと言いましたが…聖女は廃止するのでしょう?」
「あれは駄目だ。国民が堕落するだけ、一人の女性をただの道具のように扱うだけの…」
「私は…平民の出です。聖女ならばまだしも、それすらなくなれば、何も持たないただの女です。なのに国王になるお方の求婚をお受けするなど…」
「そうか?僕を助けただろう?」
「え?」
「今までたくさんの人が、この国の誰もが君の世話になっている。本当に自分が何も持たない"ただの"女だと思っているのかい?」
「それは…そうかもしれませんが」
「理由が欲しいなら、それで十分だね」
「しかし!」
「ああ!もう!つまり僕が君に惚れているんだ。それじゃあ駄目か?」
「!!!??…っっっ!」
「まどろっこしいことはなしだ」
私と対峙するルイス様は、どこまでもまっすぐに見つめてくれる。
「君の意識がない間、僕は勝手に君と約束した。君が1ミリでも僕のことを好きでいてくれるのなら、くちづけして欲しいって」
「本当に、勝手です…」
急に唇が重なって、頭が痺れる。
「好きだと言ったろ、僕のこと」
「言いました…けど」
背中に手が回って、離してくれそうにない。
「あいつとどこでどう過ごしたか、僕は聞かない。これからの君の人生を僕にくれないかな」
景色が揺れる。
涙が溢れないように耐えた。
誰よりも近くにいたのに、誰より遠い気がしていた。
今はこんなにも抱きしめてくれる。
「皆さんが…許すでしょうか?」
「許さない奴がいるとしたら、そいつは死んでも良いだろう。この国でキャンベルの治癒を受けていない人間などいないのだから」
するりと抱きしめていた腕が緩む。
跪き私の手を取ると、唇が触れた。
「国王陛下…」
「君にそう呼ばれるのは望まない。ルイスと、ただそう呼んで欲しい。君の前では、僕はただの男だからだ」
私は胸が痛くて立っていられなくなり、しゃがみ込んだ。
「もう!ずるいです!ずるいですわ!本を取り上げようとしてみたり、名前を呼ばせようとしてみたり…」
「狡いか?」
「ええ、とっても」
私が胸を押さえていたので、ルイス様は慌てた。
「おい、どうしたんだ?」
「胸が…苦しくて…泣いてしまいそうなのです。目の前の人が、あんまり可愛いことを言うからですわ」
彼は、顔を真っ赤にして両手でその赤らんだ顔を覆っている。
「…キャンベル。抱きしめても?」
「お好きなように…」
しゃがんでいる私を、片膝立ちのまま腕に迎えられる。
「…仕事がなければずっとこうしていたいな」
「あ、夕暮れ」
窓からさす夕陽が地の端に落ちてゆく。
「綺麗だな」
「本当に…あなたと見る夕陽はとても綺麗だわ」
「君だよ」
そしてまた再び重なった唇に愛しさばかりが募る。
「夕陽に照らされた君はなんて綺麗なんだろう」
「ルイス…」
つい言ってしまった名前に、ハッとして「様」と言おうとしたけれど、すかさずくちづけで塞がれてしまった。
「…うん、上出来だ」
「やっぱり狡い」
くすりと、二人で笑い合った。




