夕焼けと竹とんぼ
ある日の夕暮れ、私はふと近所の公園へと足を運んでいた。
昔は、子供たちが暗くなるまで遊んでいたこの公園も今は薄暗い街灯が遊具を照らしている物静かな雰囲気となっている。
「またここに来ちゃったな。」
私は公園のベンチに腰を掛け、ほっと一息ついた。
この公園には、忘れられない思い出がある。それは私がまだ小学生だった頃の話です。
「お母さんただいまー、行ってきまーす。」
学校が終わり、家に着くと同時に私は家を飛び出した。
今日は公園で友達とかくれんぼを約束していた。
「おまたせ。じゃあ最初は○○ちゃんが鬼ね。」
そしてかくれんぼは始まった。
鬼の○○ちゃんが数を数え始めると、みんなが一斉に隠れ始めた。
(どこに隠れようかなぁ。)
私が隠れ場所を探していると、ふと目に入ったドラム缶がちょうどいいと思い入りました。
「それじゃあ、探し始めるよー。」と、○○ちゃんの声が聞こえたのでドラム缶に体操座りをして身を隠しました。
しばらくして、私は妙な違和感を感じ外を見ました。
するとそこには、友達の姿はありませんでした。
そして、18時に鳴る夕焼け小焼けだけがもの悲しく鳴り響きました。
「○○ちゃんどこー?みんなー?」
私は一人取り残されたんだと泣きそうになりました。
その時、ペチンと頭に何かが当たりそれを拾いました。
「竹とんぼだ!」私は思わず声を出しました。
すると、竹とんぼを飛ばしたであろう青年がこちらへやってきました。
「おや、君が拾ってくれたのかい?ありがとう。」
夕焼けを背にしながらやってきた青年の声はとてもやさしかった。
「君はどこから来たんだい?こんな時間だしもうお家へ帰ったほうがいい。」
私は、彼に「わかった!お兄さんさようなら。」と言って家へと向かった。
だが、家への帰り道を歩いていると見慣れない風景が広がっていた。
辺りを見渡してみると、二階建ての家がなく通りにある友達の家もなかった。
私は急いで自分の家があるところまで帰ったが、そこに私の家はなく空き地となっていた。
「うそ..おうちどこ?お母さんはどこ?」
私は泣き出しました。帰る場所がなくなっていたので仕方ありませんよね。
すると、そこへ公園で会った彼が現れました。
「そこが君の家があった場所なんだね。」と、彼は不思議なことを言いました。
「おうちなくなっちゃった。お母さんもどこにいったのかわからない。」
私がそういうと彼はそっと頭をなでてくれました。
「大丈夫。まだ君はお家に帰れるよ。ついてきて。」
彼の後をついていくと、先ほどの公園へと戻ってきました。
「あれ?時計止まってるの?」公園にある時計は18時を指していました。
彼と公園で会ったのも18時だったはず、私が首をかしげていると彼はにっこりと笑いました。
「そうだよ、ここは時が進むのをやめてしまった世界なんだ。だからほら、ここは夕焼けが綺麗なんだ。」
そう言いながら彼が身をひるがえすと、その後ろには真っ赤な夕焼けが公園を照らしていた。
そのきれいな夕焼けに思わず見とれてしまった。
「この竹とんぼはね、僕の大切な人からもらったものなんだ。だけど、君が無事にお家に帰れるようにお守りとして持っていきな。」
そして竹とんぼをもらった私は、ありがとうとお礼を言った。
「確か君はドラム缶の近くにいたね、そこに入ろうか。」
そう言って彼は私をドラム缶へと入れてくれた。
「また会える?一緒に行かないの?」私は彼と別れるのが少し寂しくなってしまった。
「本来であれば君はここには来れないけど、もしかしたらまた会えるような気がする。」
彼は少し悲しそうな顔を見せながらも笑っていた。
「竹とんぼ!また会えたら竹とんぼ返すよ!約束。」
彼は私の言葉に驚きつつ、「あぁ、約束しよう。」と指切りげんまんをした。
そして、私は最初と同じようにドラム缶に体育座りをした。
するとしだいに眠くなり、私は眠りについた。
その後、私は元の世界へと戻れたんだと思う。目が覚めて起き上がると泣きながら私を抱きしめた女の人や私と同じ年くらいの女の子たちが泣きながら謝っていた。
そう、私は彼との記憶は残っていたがこちらの世界の記憶の一つも残っていなかった。
記憶喪失というらしい。
そんな私にはこちらのお母さんと呼んでいた人や遊んでいたという○○ちゃんなどたくさんの人に囲まれて生きるのは怖かった。
だからこうしてこの公園に来ては彼との思い出を思い出しているのだ。返すと約束した竹とんぼとともにこの夕焼けが綺麗な時間にまた会えるのを待ち焦がれながら。