5/9
誘拐
『やっぱ、これが一番手っ取り早いな』
部屋から辛とココアがいなくなった隙を見計らって、蠍は蟻に変身すると、籠の隙間から悠々と脱出した。
そして、今度はココアに姿を変える。
この姿なら、屋敷の誰かに見つかっても誤魔化せる。
あとは用事があるふりをして堂々と外に出れば良いのだ。
と、決めてからは実に簡単なもので、蠍はあっさりと屋敷の門から外に出る。
やや肩透かしだったが、鳥にでも変身してさっさと汐の家に帰ろう。辛から見たら蠍が突然消えたことになるが、後の事は知らん。
そう思っていたら、前方に汐がとぼとぼと歩いているのが見えた。屋敷を出たのはそれなりに前だが、しばらく屋敷の前でうだうだしていたんだろう。
「おっ·····」
声をかけようとして、今自分はココアの姿だったと気がついて、左目を押さえる。
が、変身する前に、汐のすぐ脇に一台の車が停まる。
降りてきた男が突然汐の腕を掴み、車に引きずり込んだ。
「おいおいおいおい!!」
思わずココアの姿なのも忘れて叫ぶが、車は構わず発進してしまった。