辛からの呼び出し
【近況報告】買ったばかりのパソコンを二日で壊して電気屋に駆け込みました。
ある日、汐のスマホにメールが届いた。
そこにはただ一言、
『午後ならいつでも良いから家に来い』
送り主の名前は、辛。
汐は唸った。
辛から呼び出されるときは、大抵汐が何かしでかして怒られるときだ。
汐は最近あった出来事を思い返す。
夕暮れの学校で幽霊もどきに遭遇したことだろうか。
その流れで美術教師と籠城(教室)戦を繰り広げたことだろうか。
それとも自分は殺人犯だと思い込んでいる女性と知り合ったことだろうか。
他にも色々あるが、どれも大事には至らなかったのだから勘弁してほしい。
『誰だよ。辛って』
耳のすぐ横から声がする。
いつの間にか、肩に『彼』が載っていた。
彼は、蠍。名前の通り毒虫で、一応汐のペット、ということになっている。普通は喋ることが出来ない生物らしいのだが、左目にはまった星屑の力により、彼は普通のサソリとは違っているらしい。
「蠍さん、会ったことなかったっけ。友達だよ」
辛は汐の幼馴染である。
出会ったのは五歳のときだったか。あの日汐は一人で公園で遊んでいて、転んだ拍子に持っていたアイスがたまたま歩いていた辛の顔面にぶち当たったのだ。
出会いがそれなのに何故仲良くなれたのか、汐には今でもわからない。
アイスの件に関してはその場で許してくれたが、連絡先を聞かれ、その後ちょくちょく二人で会うようになった。
その後、なんだかんだで付き合いは十年程になる。
『きゅぅきゅ(メール?)』
雨がふよふよと飛んできた。
雨は今は亡き汐の祖父が星屑を加工して造った星生物である。
丸い金属のような球体に、プロペラとギョロっとした目がひとつだけついた、可愛らしい生き物だ(多分)。
『きゅーっ(辛ちゃんから)!?』
雨が悲鳴を上げる。彼は金属音のような鳴き声なので、叫ぶと歯車が軋むような音が響く。
雨は辛が苦手だ。というより、怒っている人を見るのが怖いらしい。
「雨ちゃんはお留守番してれば良いと思うよ」
汐は雨の側面をぽんぽんと撫でる。プロペラがあるため、頭頂部は撫でられない。
「蠍さんはどうする?雨ちゃんとお留守番してる?」
『行く』
蠍は即答した。