フロストフラワー
────キラキラ、キラキラと。
そこには、湖上に白くきらめく氷の花が。
凍った水面を埋め尽くすように、朝日を浴びて一面に、氷の花が咲いていた。
「フロストフラワー、と言うんだそうです」
目の前の光景にただ呆然と見入る繭子の隣に両義がやってくる。
「雪華草の時期に帰って来れなかったので。他に咲いている花はないかみんなに相談したら、この湖のフロストフラワーがちょうど今日見られると教えてもらって」
両儀は繭子に雪華草の花束を渡した。
「精霊たちが、少しだけ余計に咲かせてくれました」
そして緊張したような表情でまっすぐに繭子を見つめると、小箱を取り出して目の前で開く。
中には、指輪が入っていた。
「繭子さんと、これからもずっと、この世界のきれいなものをたくさん見ていたいです。雪華草の花言葉は『また君に会いたい』。繭子さんが嫌でなければ、この指輪を受け取ってください。そうしたら、生まれ変わってもまた、探して会いに行きます」
それは、ぐるりと繊細な透かし模様が彫られた、美しい銀色の指輪だった。
ところどころに、小さな宝石が光る。
繭子の唇が、小さく震えた。
「また、会える?」
「はい」
「生まれ変わっても、また見つけてくれる?」
「はい。必ず」
繭子は指輪を胸に握りしめた。涙がこぼれる。
「わたし、すぐにおばあちゃんになる。両儀さんが他の人を好きになったら、きっとすごく嫌な顔する」
「どっちも問題ありません。繭子さんはきっと可愛らしいおばあちゃんになりますし、他の人は好きにならないので大丈夫です。それより、いいんですか? ずっとずっと、いつまでも繭子さんは僕の奥さんになるんですよ? 途中で嫌になってはダメですよ?」
繭子は泣き声にならないよう、必至で声を出した。
「嫌にならない、からいい」
両儀が笑顔で嬉しそうに繭子を抱きしめる。
繭子はあふれる涙をとめられなかった。
空が朝の喜びに染まりはじめる。
世界はただ広く、青く、そして白い。
その輝く冬の中で精霊たちが歌っていた。
家族が増えたと、運命が繋がったと輝き舞い踊っていた。
〜終〜