インスタントフィクション 言い訳
六畳の部屋の天井を仰ぎ見て僕は筆を持ち、天井をカンバス代わりに絵を描く。別にミケランジェロみたいな大層なものは描けないし、ここは大聖堂でもない。スラスラと走らせた筆に描かれる絵は僕にしか見えない。筆の先は欲しい色に変化していくので緻密な絵も描ける。
僕は別に画家を目指してるわけではない。何かにすがりたくて天井画を描いている。描いてる間は何もかも忘れられる。今回も作品と呼べるには程遠いものに仕上がった。別に人に見せるわけでもないのでいいのだ。
支度して仕事に行く準備をする。よれよれのワイシャツを着る。上からジャケットを着るから隠れて見えないだろう。ネクタイを締めて姿見で確認する。髪が伸びたが来週美容院を予約したから大丈夫だ。
もう行く時間だ。ため息混じりのタバコをふかしてから革靴を履く。
寒くなった街に繰り出す。季節は全くもって性懲りも無く繰り返されていく。もう諦めて欲しいものだ。