表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DRAGON HEAD  作者: かりんとう
2/3

DRAGON HEAD 1-1

【佐藤】


〝仕事場〟に到着し、携帯の時計を確認する。

【18:01】

予定では17:30には来れたはずだ。

遅刻してしまった。

パチンと携帯を閉じる。

連絡さえ出来れば良いと思っているので、まだガラケーだ。


今回の遅刻にはそれなりの理由があった。

駅のコンビニに舞が好きな〝プリキュア〟とやらと

コラボした缶コーヒーがあったので買おうとしたのだが、

何色のキャラクターが好きなのか思い出せず悩みに悩んだ末、

殺しの仕事に遅刻した。プロとしては失格であるが、

父親としてはあるべき姿だったのではないだろうか。





言い訳している場合ではない。

まずい。非常にまずい状況だ。

今日は19時半には帰る約束になっている。

久々に家に帰ることが出来るのだ。最近は殺し通しで、

毎日のように冷たい肉の塊を作り出していた。


この日をどれだけ待ち望んだか。

妻と娘と1分でも長く話がしたいものだ。

仕事の話はできないので、土産話は特にないが、

ささやかな会話だけでも、自分の心は潤っていった。

こんな感覚は、家族が出来なかったら一生味わうことなんて

なかっただろう。


約束を破り、娘との心の距離が離れていくのだけは

どうしても避けたい。


そのために、今出来ることはただ1つ。

1分でも早く殺すことだ。


キンッ

がちゃり。

鍵のボルトを切り、玄関を開ける。

建付けが悪く軋みやすかったが、音は最小限に留めた。

自分が遅刻したことでターゲット達がいなくなって

いなければいいが。


ドアを開けると、

目の前に若いジャージ姿の男が立っていた。

目を丸くして、こちらを見つめている。


良かった、まだ居た。ちゃんと殺せる。

ホッと胸を撫で下ろす。


金髪をワックスで撫で付け、オールバックにしている。

明らかに堅気の人間ではなさそうだ。

外に出てタバコを吸うつもりだったようだ。

右手にタバコの箱を持っている。


突然の侵入者に、驚きを隠せない様子だ。

「なんだおま」


両手で金髪男の頭を抑え、横向きに90°へし折った。

ゴキュッと音を立て、頚椎が外れる感覚が

両手に伝わってくる。

自分の同業者はこの感覚が苦手らしいのだが、

個人的には好きな感触だ。


タバコの箱が金髪男の右手から零れ落ちる。


男は糸が切れた操り人形のように頼りなく脱力し、

膝から崩れた。

血混じりの泡を吹きながら、

タバコに震える手を伸ばしている。


そんなにタバコが好きなのか。

電池が切れた玩具の人形の方が、まだ尊厳がある。


懐からナイフを取り出し、廊下を進んでいく。


がちゃりとドアを開けると、中の男たちが

一斉にこちらを向く。

沈黙が流れた後、ようやく右手のナイフに

気づいたらしく、慌て始める。


…3人か。


「お前誰だ!?木戸はどうした…?」

長髪の男が怒鳴ってきた。

そんなに怒ることもないだろう。

突然の出来事に動揺しているらしく、上手く呂律が

回っていない。


木戸というのは、さっきのタバコ依存性の金髪だろうか。

いずれにせよ、質問に答える時間はない。


「悪いが、死んでくれ。」

照明が反射し、ナイフが鋭く光る。


壁のスイッチに手を伸ばし、電気を消す。





……… 〝仕事〟を終え、携帯の時計を確認する。

足元には死体が4つ並んでいて、

引き摺られた血の跡が線路のように床に染み付いている。


このあと処理の人間が来るらしいので、

親切心で並べておいた。

妻曰く、「目配り気配り思いやり」だそうだ。

あとは、「来た時よりも美しく」だっただろうか。


妻の教えには新鮮な感動が多い。


【18:07】

悪くない。

思ったよりはかからなかった。

〝弓田〟に報告のメールをしよう。


携帯の画面には、画質の荒い妻と娘の笑顔が

映し出されている。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ