37 愛の形
ノマーリンは誤魔化すようにお菓子を口に運ぶレンエールを微笑んで見つめる。
「でしたら、結婚式の後でも、しばらくは学ばれたらよろしいですわ。父―バザジール宰相―には許可をもらってあります」
レンエールはお菓子を喉に詰まらせてむせた。
「ゴホゴホゴホ! 結婚式??」
「そうですわ」
ノマーリンが笑顔で小首を傾げる。
「卒業式の一ヶ月後、わたくしたちの結婚式でございましょう?」
「そ、それは……」
レンエールとノマーリンの結婚式は卒業式の一ヶ月後と決まっていた。それをサビマナに替えようという話になっていただけだ。
「ノマーリンは……そのぉ……俺と結婚してくれるのか? そ、それをバザジール宰相も許してくれているのか?」
「許すも何も、決まっていることですよ。殿下がお嫌でいらっしゃらないなら、ですけど」
「嫌なわけがないっ! だが、だが、俺はノマーリンを傷つけたっ! それに、婚約も解消してしまった!」
「婚約は解消されておりません。書類が提出されておりませんの。わたくしたちの婚約解消が成立しておりませんので、あの方と殿下の婚約も成立しておりませんわ」
レンエールはパカンと口を開ける。王子らしくないのだが、ノマーリンしかいないので、ノマーリンは特に咎めたりはしなかった。
目を泳がせて何かを一生懸命に考えているレンエールを待つため、ノマーリンはゆっくりとお茶を楽しみ、お菓子に舌鼓を打った。
「俺は、俺は……。ノマーリンに何ができるのだろうか?」
レンエールは泣きそうな顔で訴えた。ノマーリンは笑顔のままでしばし考えた。そして、思い当たり微笑みを深める。
「でしたら、欲しいものがございます」
「なんでもっ! 何でも言ってくれっ!」
レンエールは身を乗り出して懇願した。
レンエールは縋る気持ちで身を乗り出してノマーリンの言葉を待った。
「わたくしは、殿下から『愛』をいただきとうございますわ」
ノマーリンは慈母の微笑みである。
「『愛』?」
「ええ。そうですわ。『恋』はサビマナ様のものになってしまいましたもの。ふふふ。
親愛でも、信愛でも、友愛でも、慈愛でも、敬愛でも、家族愛でも……
「敬愛しているっ!!」」
レンエールはさらに身を乗り出してノマーリンの言葉に被せた。
「え?」
ノマーリンは即答のレンエールに驚いた。
「サビマナと過ごしている時に、『ノマーリンは俺にこうしてくれたな』とか『俺にこう言ってくれたな』とかたくさんノマーリンの事を思い出していた。
そうしたら、ノマーリンがどれほど素晴らしいご令嬢なのか、どれほど俺に心を砕いてくれていたのかを理解した。
ノマーリンにとっては俺への憐れみだったのかもしれない。だが、それでもずっと根気よく付き合ってくれた。
俺はノマーリンを尊敬し敬愛している」
「…………。照れますが……その……嬉しいですわ」
ノマーリンが頬を染めて俯く。レンエールはドキリとしたて、少し口籠る。
「あの……その……。そうだ、この気持ちは変わらないぞ。俺はノマーリンが俺の妻にならなかったとしても、ノマーリンによい国王だと少しでも思ってもらえるように頑張っていこうと思ったんだ。
敬愛するノマーリンに認めてもらえるような国王になる。そう決心したんだ」
レンエールは夢中になって自分の気持ちを話した。




