33 サビマナの資質
髪を振り乱して喚いているサビマナは、いつの間にかバザジール公爵が呼んでいた衛兵に腕を掴まれて長机から引き剥がされる。
「何するのよっ! 私は未来の王妃なのよっ! あんたの顔、覚えておくからね」
あまりに突拍子もない発言に全員が呆然としたが、立ち上がり顔に出したのはボーラン男爵親子だけだった。
バザジール公爵が顎で外に出せと指示をすると衛兵はサビマナの首に手刀を当てて気絶させ、肩に担いで出ていった。サビマナが平民であることが衛兵には伝えられていたので、衛兵は遠慮なく手刀を当てたのだ。
どこに連れて行かれるのかは大方予想ができた。サビマナが出ていくとボーラン男爵親子は椅子にガクリと座った。
ボーラン男爵は憑物が落ちたようにすっきりとした顔をしていた。
「私は何を勘違いしていたのでしょうな? あれ―サビマナ―が王子妃になどなれるわけがない。ましてや王妃など……。
そんなことになったら国が滅びます。
親としてそれもわかっておらず、あれの暴走を止められなかった。
さらにはあてにして借金をするなど……。愚の骨頂ですな。アハハハ」
ボーラン男爵の乾いた笑いにバザジール公爵とネイベット侯爵は微妙な苦笑いをすることしかできない。レンエールは悲しげな微笑だった。
「陛下は私達に恩情をかけてくださったのですね」
ボーラン男爵子息は父親の言葉に不思議そうな顔をした。
「そうです。
陛下との約定を破ったことに対して罰則として爵位剥奪、または、他家への詐欺罪で爵位剥奪となるところでした。しかし、この話になる前に退室なさることで、借金の返済さえすれば見逃してくださるとの意思表示です」
「爵位剥奪となれば借金だけが残り平民になる。爵位を売れば借金はなく平民になる。どちらがいいかなど、わかりきったことですな」
「おわかりいただけてよかったです。爵位と領地は我が家で買い取ろうと思いますがよろしいですか?」
「ネイベット大臣には投資もしていただいておりますから、それが一番いいと思います」
「小さな商店か、少し大きな牧場なら買えるくらいのお金は残りますよ」
ボーラン男爵は目を見開いた。その目から涙が溢れた。
「ありがとうございます! ありがとうございます! 私たちはこれらとゆっくり堅実に暮らせれば充分です」
ボーラン男爵は子息の頭に手を置いて下げさせ、自分も深く頭を下げた。
「ですが、サビマナさんと暮らすことはできません」
バザジール公爵は同い年の娘を持つ身として、つらそうにそう言った。
「はい。それは致し方ありません。王家への裏切りであるのに、命を取らずにいただけて感謝しております。
我々には娘が王子妃となることがどういうものか、知識も覚悟も足りなかった。いや、無かったのですね」
顔を上げたボーラン男爵は苦しげに笑った。
「殿下。ご迷惑をおかけいたしました。前妻と別れ、これら―現妻と子息とサビマナ―と暮らすことになったときに私が平民になればよかったのです。三人を裕福にしてやれるなどと愚かな夢を見てしまいました」
「いや、私こそ、そう思わせてしまった原因の一つだ。私も愚かだったのだ……」
バザジール公爵がレンエールを見て首を横に小さく振った。レンエールは王族として謝ってはいけないと言われていることに気が付き、下唇を噛んで我慢した。
「ボーラン領では誰に元の身分を知られているかわかりませんね。逆恨みもあるかもしれない。我がバザジール領で次の家を探しましょう」
「助かります。牧場を探していただけると嬉しいです」
「わかりました。任せてください」
ボーラン親子は目を合わせて喜んだ。




