32 王家の者
両陛下とムアコル侯爵親子が出ていくのを確認して、みなが座り直す。
「早速ですが、先程の話の続きを始めましょう」
宰相バザジール公爵はネイベット侯爵を促した。
「そうですね。ボーラン男爵。はっきりと申します。王都屋敷の売却、それに調度品と装飾品の売却。それらをしても、借金の三割ほどしか返済できません」
「「なっ! なっ! なっ!」」
ボーラン男爵からは貴族たちからの名前や借金額などはすでにすべて聞き出していた。領地の新執事が見た帳簿とも合っている。誤魔化す気持ちがないことはボーラン男爵の美点だ。ボーラン男爵夫人は再び気を失った。
「その金額には我が家への返済は含まれていませんよ」
夫人は気を失ったままでよかったかもしれない。聞いたら心臓が止まってしまったかもしれないほどの話だ。
実際にボーラン男爵は白目を剥いてしまい、バザジール公爵の指示で文官が医師を呼びに行った。
しばらく休憩時間となった。レンエールはサビマナと交流を持たないために自分の執務室で休むことにした。
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レンエールが文官に呼ばれ会議室に戻り席に着いた。
「ボーラン男爵。具合はどうだ」
「ご心配をおかけして申し訳ありません。だ、大丈夫です。妻は医務室に行かせました」
「レン! お父さんは大丈夫じゃないわっ! 今日はもう止めてよ」
サビマナが目を釣り上げて騒いだ。
「サビマナさん。本来貴女はここにいてはならないのだ。貴女は陛下のご指示ですでに平民なのだよ。理解しているか?」
バザジール公爵は容赦ない。サビマナはワナワナと震えて絶句した。
「王族は平民と気軽に話すわけにはいかない。それが殿下のお立場というものだ」
レンエールがゾフキロを激励した際、バザジール公爵と視線を合わせたのはこういう意味合いであったのだ。
サビマナがバザジール公爵を睨む。
「それが王家の者の立場です。習いませんでしたか?」
バザジール公爵が口角を片方だけ上げた。皮肉が通じたようでサビマナの顔が赤くなる。照れているわけではなく怒りからなので、目つきは更にキツくなっていた。
王家と貴族家と平民については、一般教養として最近勉強したはずなのだが……。
レンエールは心の中でため息をつく。
「つまり、ここに貴女がいられること自体が殿下からの恩情なのだ。黙って座っていなさい。出ていってもらっても問題ないのだぞ」
サビマナはバザジール公爵に向かって『フンッ』と鼻を鳴らして横を向いた。スカートの脇にある握った拳は震えている。
二人のやり取りを見ていたネイベット侯爵は小さくため息を吐くとサビマナからボーラン男爵へと視線を戻した。
「ボーラン男爵。厳しい話になるが君たちの未来ための話なのだ。家長としてしっかりとしてほしい」
「は、はい……」
「このリスト以外に何か思い浮かぶものはありますか?」
「こんなに……こんなに安いのですね……」
リストを改めて見たボーラン男爵がプルプルと震えた。ネイベット侯爵が悲しげに頷いた。
「これでもかなりの高値をつけてもらっています。商人は買い取り価格に利益を乗せて売ります。ですが、この価格では利益は乗せられません。それほど高値で買い取ってくれました」
「なぜそんなことをしてもらえたのですか?」
ネイベット侯爵がバザジール公爵を見て苦笑いをした。
「バザジール公爵をご紹介することで納得してもらったのです。その商人がバザジール公爵領で買い取りや販売をできるようにしてもらいました」
商人からすれば、ボーラン男爵のガラクタを高値で買い取っても充分に利益を得られる相手との繋がりを持てた。
ボーラン男爵はバザジール公爵にペコリと頭を下げる。バザジール公爵は『大丈夫だ』というように掌を見せた。
「それで、何か価値ある物は思い当たりますか?」
「我が家にはもう何もありません……」
「そうですか……。
男爵……。はっきりと申しまして、爵位の売却以外に助かる方法はないと思います」
ボーラン男爵は予想していたのか、何も反論せず項垂れた。
「そんなのっ! ひどいわっ!」
サビマナが立ち上がってまくし立てた。




