28 騎士団長の人徳
廊下に続く扉に、珍しくけたたましくノックがされた。ネイベット侯爵が首肯すると護衛が扉を開ける。慌てた文官が入室してきて頭を下げるや挨拶もなしに口にした。
「ムアコル騎士団長様が辞職願いを出されましたっ! ご子息も近衛隊長を降りるそうですっ!」
ムアコル騎士団長はゾフキロの父親である。近衛隊長はゾフキロの長兄、ムアコル侯爵家の長男で後継者だ。
「何っ!? 今、どこにいる?」
「まだ国王陛下の執務室におられます」
「すぐに行く。ムアコル騎士団長を帰らせてはならない。近衛騎士団総出でも抑えておけ」
「はっ!」
文官は急いで立ち去った。
「お前たちも行け。こちらもすぐに向かうから護衛は問題ない」
「「はいっ!」」
二人の護衛はガチャガチャと鎧を鳴らして走って行った。ムアコル騎士団長は部下に慕われているので、護衛たちも心配なのだろう。
「大臣。相談する時間はなさそうだ」
「今の殿下でしたら、お任せできます。お供いたしまょう」
二人は国王陛下の執務室へ向かった。
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予想通りというべきなのか、国王陛下の執務室の前には六人の男たちに床に押さえつけられている燃えるような赤髪の大男がいた。
「団長! 早まらないでくださいっ!」
「団長に辞めてほしくありませんっ!」
「殿下がいらっしゃるまで、今しばらく、今しばらくお赦しください!」
「団長が腹を切るときにはお供いたします。ですから、どうかもう少しだけ」
近衛騎士たちは泣きながら大男を押さえていた。その中には先程までレンエールを室内で護衛していた二人もいる。他の四人はレンエールの部屋前護衛と国王陛下の執務室前護衛の者たちだ。
その大男――ムアコル騎士団長――は、部下たちの訴えに諦めたように抵抗していなかった。
「騎士団長はもう一度話を聞いてくれそうだ。立たせてやってくれ」
レンエールは近衛騎士たちに声をかけた。
押さえていた近衛騎士たちが立ち上がるとムアコル侯爵も自分で立ち上がった。そして、改めてレンエールに頭を垂れた。近衛騎士たちもそれに倣う。
「今はそれはいい。
ムアコル騎士団長。私と一緒に陛下と話をしてほしい」
ムアコル侯爵は判断をするためネイベット侯爵を見ると、ネイベット侯爵がきっちりと首肯した。
「……わかりました。ご一緒させていただきます」
ムアコル侯爵は橙の目を伏せて了承の意を表す。
「よろしく頼む。
お前たちは業務に戻れ。これについて他言はするな」
「「「はっ!」」」
レンエールの部屋前護衛は走って持ち場へ戻り、残りの四人はその場で持ち場に直立した。
レンエール、ネイベット侯爵、ムアコル侯爵は国王陛下の執務室へ入室した。
国王陛下は執務机に座り、宰相であるバザジール公爵と仕事をしていた。
国王陛下は、レンエールがムアコル侯爵を従えていることにホッとしたが顔には出さなかった。
「ムアコル団長。戻ってきてくれて嬉しく思うぞ。そちらに座ってくれ」
五人の男たちはソファに腰を落ち着けて話し合いを始めた。
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ゾフキロが捕縛されてから三日、五人は毎日のように話し合った。
そして、四日目。王城の会議室に当事者たちが集められることになる。
その場では、一番エライはずの両陛下は壁際に仰々しく用意されたやたらと豪華な椅子に座っている。その他の者たちが四角に並べられた長机の外側にみんなの顔が見えるように座っていた。




