25 金銭の回収
レンエールは『ふぅ』と大げさにため息をついた。
「ボーラン男爵。話がしにくいから、とりあえず座ってくれ」
文官に目配せをする。首肯した文官はボーラン男爵に近寄り、肩を支えるようにして立たせソファに座らせた。
別の文官がコップに水を入れ、ボーラン男爵へと渡す。レンエールが掌を動かし、ボーラン男爵に飲むように促す。ボーラン男爵は一気に飲み干し、空のコップを文官に手渡した。
ボーラン男爵がフッと息を吐いた。落ち着いたことを見越して、レンエールが追求を開始する。あくまでも優しく。
「その屋敷への投資とはどのようなことをしたのだ?」
「お、王都の屋敷と領地の屋敷を修繕しました……」
「あれは借金でしたのですかっ?!」
王都の屋敷に出向いているネイベット侯爵が憤慨したように言い放つ。ボーラン男爵はさらに俯いてビクビクする。
「大臣。まあ、落ち着いてくれ」
レンエールは掌を見せて制する仕草をする。ネイベット侯爵はいやいや渋々という体で頷いた。
「修繕したのなら、調度品も揃えたのか?」
「は、はい……」
「そう言えば、見たことがない装いだな。それは?」
「こ、これも仕立てました……」
「それも借金で、ですかっ?!」
「大臣……」
ボーラン男爵に詰め寄ろうとするネイベット侯爵をレンエールが止める。もちろん演技で、だ。
「その屋敷にあるという装飾品もか?」
ボーラン男爵は泣き顔で首肯した。レンエールは目を閉じて考えるフリをする。緊張感張り詰めた静寂な時間が流れていく。
どのくらいの時間だっただろうか。ボーラン男爵にすれば、随分と長く感じる時間だった。あまりの静けさに汗を拭うこともできず、顔は汗まみれになっていた。
やっと目を開いたレンエールは悲しそうな顔で呟いた。
「ボーラン男爵。大変残念だろうが、まずは王都の屋敷を売却するほかないだろうな」
「そんなぁ……」
「では、屋敷を手放さないとして、陛下の命に背いた罪で裁かれるのと、金を貸してくれた貴族たちに刺されるのはどちらがいいのだ?」
ボーラン男爵はそこまで考えていなかったので泣いて赤ら顔を呆然とさせる。
〰️
ボーラン男爵はレンエールの指示でとりあえず王城の客室へ案内されることになった。ボーラン男爵はレンエールの親切心だと思っているが、これは実質軟禁であった。用意された部屋は三階でベランダからの逃走は無理だし、警護という名の監視が廊下に恭しく四人もいる。肥満体型のボーラン男爵が騎士たちから逃走できるとは思えないが、万が一の時には連絡係と追跡係が必要だからだ。
ボーラン男爵から話を聞いた後のレンエールはテキパキと文官に指示を出していく。
「早速、本日中に査定をしろ。ボーラン男爵一家の荷物をまとめるメイドも連れて行け。夫人と子息を確保し、ボーラン男爵とは違う部屋に案内だ。二人にはまだ金銭問題は伝えないでおく」
「では理由はどうなさいますか?」
「サビマナの教育に協力してもらうため王城に一週間滞在してほしいとしておけ。その協力の一環で二人にもマナーを覚えてほしいと言って引き止めておけば大丈夫だろう」
「かしこまりました。マナー講師を手配いたします」
三人の身柄確保を優先したのは、彼らに調度品や装飾品などを売られて現金にされると徴収しにくくなるからだ。
「普段着の物はほとんど持たせてよい。最近仕立て物は二着だけ持たせてやれ。装飾品は一つでいいだろう」
「調度品はいかがいたしますか?」
「大臣の見立ては?」
ネイベット侯爵は渋顔で左右に首を振った。
「ということは、屋敷が売られれば捨てられてしまうものだろう。できるかぎりこちらへ持ってこい。二束三文でも売れぬよりましだ」
それからも事細かに指示を出し、メモをとった文官が部屋を出ていった。




