22 文官の苛立ち
王城に到着したレンエールは早速指示を出し調査をさせた。
調査結果は三日後にもたらされた。ボーラン男爵は貴族たちからかなりの借金をしていた。『王子妃となるから』と説明して金を借りているという報告だった。
ボーラン男爵からの借金の申し出に、敏い貴族は王城へ問い合わせた。ネイベット侯爵の指示でもちろん『サビマナが王子妃になる』という話は否定している。王宮総務部の大臣であるネイベット侯爵のサイン付きの解答である。どちらを信じるかは言わずもがな。なので敏い貴族は金を貸さなかった。
だが、レンエールとノマーリンの不仲とレンエールとサビマナの懇意は公然であるので、ボーラン男爵の言葉を鵜呑みにしボーラン男爵に金を貸した者は少なくない。
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ボーラン男爵は早速レンエールに呼び出された。そこにはネイベット侯爵も付き合った。
「俺とサビマナの婚約は内密だと指示されているのに、それを理由に金を借りているという噂があるが?」
ボーラン男爵は額の汗を懸命に拭う。焦っているからなのか太っているからなのかは定かではないが、滝のように汗をかいている。それでも豪華で派手な上着を脱ぐつもりはないようだ。
「そ、そのようなことしておりませんっ! 彼らは我が領の未来を明るいものと信じて金を貸してくれたのです」
ボーラン男爵は『金を借りていること』はとうに調べられているのだろうと覚悟し、その点は正直に言った。だが、どう言って借りたかなどは『言った言わない』の水掛け論だ。誤魔化せると思った。
「そうか。それはそれは頼もしいな」
レンエールの笑顔にボーラン男爵はホッとした。
「では、その明るい未来になる根拠を教えてくれ。妻となる者の実家だ。知っておくべきだろう?」
レンエールは優しげに微笑んでいるように見えるが、目は脅迫するような鋭さだ。
三ヶ月前に会った時の柔和で懐柔しやすそうな青年は影を潜めていて、ボーラン男爵は慄いた。
『影を潜めていた』というのは、ネイベット侯爵の見立てだ。ボーラン男爵から見たらすでに『その影はない』と言えた。つまりは、ネイベット侯爵から見ればまだまだ甘いということだろう。それでも、レンエールが変化したことは目に見て明らかであった。学園という狭く同年代が揃う世界から出たことがよかったのかもしれない。
最近は、レンエールの指示でレンエール用の家庭教師が次々と離宮へ送られていた。その家庭教師たちは今まで何度もレンエールを教えようとしていたが、レンエールが逃げていた者たちであった。その者たちを離宮へ呼ぶほど、今のレンエールは勉学に貪欲になっていた。
その成果が出つつあるようだ。
「それはまだ結果は出ておらず……」
「そうか。まだ四ヶ月だからな。しかたあるまい」
存外なレンエールの優しい言葉にボーラン男爵はホッと一息つく。
「だから、途中経過で全く構わないよ。
どの街道の整備を始めたんだ? 特産品の原料は何にしようと考えているのだ? その原料確保のための農地開発や農具配布はどのくらい進んでいるのだ?
領都の警備の人員は確保できたか? 訓練は? 警備の者の装備は手配したのか?」
矢継ぎ早に重ねられた質問にボーラン男爵はたじろいだ。何も答えられない。
ネイベット侯爵についていた文官はかなり驚いていた。
今回の報告は急ぎであったため『領地の開発は何も進展していない』としか書いていない。それなのに、レンエールの質問は的確であった。四ヶ月前のレンエールとはこのような話はできなかったはずだ。
文官は平民であったので、ネイベット侯爵に調査や経過観察は指示されても、その不具合をボーラン男爵に言うことはできなかった。それをレンエールが言ってくれ、ボーラン男爵が青くなっていることにスッとした気分になった。




