19 兄の教育
ネイベット侯爵はいかにも真新しいお仕着せとスーツに見を包む使用人たちをチラリと見た。
「メイドや執事も増えているようですね」
「こうして来客に対応するためにはこちらにもメイドや執事は必要ですから」
「我々を来客と思っていただかなくて結構ですよ。
では、領地の館には?」
「執事を一人とメイドを二人雇い管理させております」
「新しく何人お雇いになったのですか?」
「執事一人とメイド四人です」
「それで領地の開発が進まないと……」
「……」
ボーラン一家は項垂れた。本当に反省しているかは不明だ。
「ところで、ボーラン卿―サビマナの兄―は学園をご卒業なさっていますか?」
ボーラン男爵子息は小さく左右に首を振った。
「つ、妻と子供らを引き取ったのは三年前なのです。サビマナはまだ入学前の年齢でしたが、こいつはすでに成人していましたのでっ!」
ボーラン男爵が庇うとボーラン夫人がコクコクと何度も頷いた。
「あぁ、前夫人との離縁が三年前でしたか? ん? 前夫人との婚姻は十八年前ではありませんでしたか?
離縁の理由は――子ができなかったことですか……?」
ネイベット侯爵はわざとらしく、パラパラと書類を開き、それにボーラン男爵の経歴が書かれていることを示唆する。ボーラン男爵子息はサビマナより六つ年上の二十三歳だ。
ネイベット侯爵の指摘にボーラン夫人が青くなる。
ボーラン男爵と現夫人は、ボーラン男爵が前夫人との婚姻前より関係しており、婚姻後も続いていたということになる。
「そ、そんなものはっ! 男ならありえることでしょう!?」
「……。さあ? 『男なら』と言われましても、私には理解しかねるお考えですが……」
「あれ(前夫人)には、金を持たせましたっ!」
鼻息荒く答えるボーラン男爵だが、先日までのボーラン男爵の様子を見るに、金を持たせたと言ってもいくばくかであることは容易に想像がつく。
ボーラン夫人と子息がボーラン男爵の膝を押さえて落ち着かせようとしていた。
「とはいえ、今となってはそれは問題ではありません」
ボーラン一家は肩を上下させてホッとした。
「ただ、『教養なくして領地の経営ができるのですか?』とお聞きしたいのです」
ホッとしたのも束の間、三人共狼狽えている。
「ボーラン卿はまだお若いのです。今からでも教養を身に着けた方がよろしいですよ。王子妃の兄、つまりは王子の義兄となるのでしょう?」
狼狽えていた目がキラキラと活力が復活した。
「わかりましたっ! やってみます!」
「教師の手配が必要でしたら、お声掛けください」
ネイベット侯爵はニッコリと笑ったが、ネイベット侯爵が用意する家庭教師のお値段の高さを知っているボーラン男爵一家は頬を引きつらせた。
ボーラン男爵は慌てて断った。
「ま、まずは私が見ますので大丈夫です」
ボーラン男爵が何とか答えを出し、ネイベット侯爵も頷いた。
「そうですね。ボーラン卿がお継ぎになって衰退したとあっては、ボーラン嬢も悲しまれるでしょうから」
ボーラン男爵一家は大きく頷いた。
「それで、領地の開発についてですが、そろそろ始めていただきませんと、婚姻に間に合いませんよ。人々の熱狂というのは冷めやすいのです。婚姻の機を逃すと人の動きが得られませんよ」
「な、なるほど。わかりました。でも、本当に資金がないのです」
「そうですか……。
王家としての支援は国として決められたものなのでこれ以上はできません。しかし、私のネイベット侯爵家としてでしたら、いくらか投資できますよ」
「本当ですかっ! それはありがたいっ!」
それから話はトントン拍子に進んだ。




