13 食事の体験
王城に呼ばれたボーラン男爵一家への挨拶もそこそこに文官がテーブルに数枚の紙を置いた。
「こちらは先週頭にボーラン嬢にやっていただいたテスト結果です」
その紙を回し見たボーラン一家は顔を青くした。文官はそれを一旦受け取りテーブルにまとめて置き、さらに別の数枚の紙を置いた。
「こちらは週末にやっていただいたテスト結果です」
それは最初に見せられた物とほぼ変わらないものだった。
「え?! なんですか、これは??」
あまりの点数の悪さに驚きを隠せなかった。
ボーラン男爵は自分が払ったお高い家庭教師代金を鑑みて、怒りを感じた。
「家庭教師がついているのでは?」
ボーラン男爵の少しキツめの口調に子息と夫人が肩を揺らした。ボーラン男爵もマズいと思ったようで左手を軽く口に当てて、脂ぎった額の汗を右手に持つハンカチで拭う。
ネイベット侯爵はそれを気にする様子も咎める様子もなく、淡々と続けた。
「ボーラン嬢は、この一週間で朝の勉強は一度も参加できず、夜も捗りませんでした」
ネイベット侯爵の表情は変わらないが隣の文官が困ったような顔をする。
ボーラン一家はすぐには意味が理解できずに固まっていた。
ネイベット侯爵が小さくため息を吐いた。
「メイドや我々がボーラン嬢に申しましてもやる気にお成りにならないと申しますか……。
どうやら我々では無理なようなのです。
朝はメイドが何度も声をかけますが起床なされません。
夜は家庭教師が付いていますが、何かと理由をおっしゃりすぐに退席なさります。
教師も我々も困っているのです。
レンエール殿下はボーラン嬢に強くは言えないようですし……」
ネイベット侯爵は本当に困っているという顔をしていた。
ボーラン男爵一家は、家庭でのサビマナの様子を思い出し、容易にその様子が想像できて渋顔になる。
「ご家族から勉強に励むように言っていただけませんか?
このままですと、家庭教師代金が延々とボーラン殿のご負担になってしまいます。ボーラン嬢がおやりにならなくとも家庭教師は用意をして待っておりますので、給与は発生いたしますので、ねぇ……」
「「「!!!」」」
ボーラン男爵一家は絶句した。それほど家庭教師代金はボーラン男爵一家にとって大金なのだ。
「それは困ります! 一刻も早くマスターしてもらわねば、うちが破綻します!」
「お安い授業料ではありませんからね。そうならないためにも、お嬢様へのご忠言を必ずお願いします」
「わかりました!」
ボーラン男爵一家はコクコクと頷いた。
「この一週間でできるようになられたのは、スープを食すマナーだけです」
「スープのマナー?」
「ええ。毎日毎食、マナー教師がつきっきりでレッスンしております」
ボーラン男爵は食べることが大好きだ。それを物語る体型をしている。なので『マナー教師がつきっきり』と聞いて自分のことではないのに渋顔になった。
そんな気持ちを知ってか知らずか、ネイベット侯爵が『思いついたっ!』とばかりにニッコリとした。
「そうです! みなさまもボーラン嬢がどのような指導を受けてらっしゃるか体験なさってくださいっ!」
ボーラン男爵は手を顔の前でブンブンと横に振った。
「いえいえいえっ! 私達は大丈夫です!」
「しかし、ボーラン嬢が王妃となれば、格式高い晩餐にみなさまも招待されることになりますよ。ですから、マナーはおできにならなければなりません」
「…………あの……、でも、家庭教師料は……?
それに食事代も……」
ボーラン男爵はどうにか断りたいと頭を巡らせた。