12 二人の食事
食堂のテーブルに向かい合って座る二人の前にお皿が出された。
「スープでございます」
朝食にも関わらず、一品ずつ出てくる様子にレンエールは少し戸惑ったが、いつもの晩餐のように食事を始めた。
「ボーラン様、こちらのスプーンをお使いください」
いつの間にかサビマナの後ろにはコリンヌがいてカトラリーの説明をしていた。
サビマナがコリンヌに教えられたスプーンを持ちスープ皿に差し入れた。
「スープには、スプーンを奥から差し入れるのではなく手前からです」
「えぇ! どっちでもよくない?」
「マナーでございます」
サビマナがやり直す。
『カチャッ』
「お皿の音はさせずにお召し上がりください」
「そんなの無理よ」
「レンエール様は音をさせておりません」
サビマナがレンエールを見るとレンエールは微笑んで頷いた。
「レンはずっとやってるからできるんでしょう!?」
「ええ。ですから、ボーラン様もできるまで練習なさってください」
「そんなのご飯が美味しくなくなるわっ!」
「今は美味しくお食べになることよりマナーを学ばれることが優先でございます」
サビマナとコリンヌはこのまま幾度となくやり合い、結局スープだけで学園へ登校する時間になってしまった。もちろん、レンエールもスープだけだ。
レンエールとサビマナは学園までの馬車内でサンドイッチを頬張ることになった。レンエールは馬車内での食事など初めてであったので、ほとんど食べる気にならず、サビマナがレンエールの分も食べた。
昼休みになると執事がレンエールとサビマナを迎えに来て、学園に用意された部屋で食事をとることになっていた。そこにはもちろんコリンヌがいた。
学園の長い長い昼休みをいっぱいに使って食事のマナーレッスンが行われた。
サビマナはコリンヌの指導一つ一つに必ず文句を言っていた。レンエールは思わず途中でサビマナに声をかけた。
「サビィ。君がこのマナーについてどんな意見を持っていたとしても、現在はこのマナーが正しいとされているんだ。まずはこのマナーをしっかりとできるようになろう」
「ええ!? でも、こんな食べ方、みんな美味しくないと思うのよ。マナーなんてない方がいいに決まっているわ」
レンエールはマナーを守る食事を美味しくないと思うことはなかったので、絶句した。
項垂れるレンエールを尻目に、コリンヌは根気よく何度も何度もサビマナに注意している。
結局、食欲を無くしたのはレンエールで、半分ほども食べなかった。サビマナはコリンヌの目を盗んでは大口で食べるなどしてキレイに平らげた。
レンエールは執事に夕食はサビマナと別々にしたいと言ったが、『コリンヌは指導をするだけですので、お手本になられる方が必要です』と言われた。
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夕食ももちろんこの調子で、スープと前菜だけで勉学の時間となってしまった。
勉学の時間には、サビマナが「お腹が空いて勉強できない」と騒いで、時間の大半が潰れた。
レンエールは自室に戻ると倒れるようにソファに沈み込んだ。
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こうして学園での平日を五日間過ごすと、レンエールが目に見えて窶れていた。
そして週末、ボーラン男爵一家が王城に招かれた。
客室には、ボーラン男爵夫妻と子息それにネイベット侯爵と文官がソファに座っている。