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40、縁結び

ミッチーの号泣は別として、季節を取り込んだ極上の料理と特別な場所での食事会はとても素晴らしかった。


「お嬢様のご結婚、誠におめでとう存じます。ぜひ、またのお越しをお待ちしております。本日は、ありがとうございました。」


ミッチーが支払いをしようとしたのを遮り、お祝いだからとママが強引にクレジットカードで支払いをすると、40代後半のスラリとした上品な女将さんが心のこもった丁寧な挨拶をしてくれた。

ママはカードと領収書を受け取りながら、そんな女将さんにニコリとほほ笑んで。


「ありがとうございます・・・亡くなった主人が、ここのお料理とツツジは本当に見事だから、自分の体調が良くなって娘が少し大きくなったら家族で行こうって・・・亡くなる前に言っていたので。だから、娘の結婚が決まった時に家族でお祝いに食事に来ようって思ったんです。生憎ツツジの季節ではなかったけれど・・・本当にお料理も、お庭も、素敵でした。こちらこそ、良い時間をすごせました。」


突然、パパとの思い出を話した。

そんなパパの話は全然知らなかったし・・・ママがそんな思いで今日お祝いしてくれたことも気が付かなかった。

グッと、目が熱くなった。

だけど、ミッチーが私の肩を抱き寄せてくれ、ノリコは・・・女将さんに頭を下げたママにそっと寄り添ってくれた。

そんな私たちに女将さんは柔らかな笑顔を向け、まだ少しお時間ございますか?と訊いてきた。

何だろう・・・そう思っていたら、ミッチーが自宅もそれほど遠くありませんし車ですから大丈夫ですと答えた。

すると、女将さんは会計場所からそれ程離れていない玄関から入ってすぐのホールに置かれているクラシカルなソファーを私たちに勧め、少しお待ちくださいと会計場所の後ろにある事務所のような部屋へ急いで入っていった。

勧められるまま私たちはソファーに座っていたら、直ぐに女将さんが部屋から古いアルバムのようなものを持って出てきた。

そして私たちが座っているソファーの前に置かれたテーブルにそのアルバムを置き、パラパラと開いた。

中に貼ってある写真はどれも白黒で、セピア色になっているものも多く・・・。

見たところ、この料亭に訪れたお客さんとの記念写真のようだ。

写真の下に、それぞれ日付と名前が書いてあった。


「大正の頃から、相田子爵様にはご贔屓頂いておりまして。昔は、保養としてこちらに年に数度いらっしゃるだけだったそうですが、その度にこちらをお使い頂いたと先代の女将が申しておりました・・・・こちらに、相田子爵様がお越しになった時のお写真がございます。本当にご立派な方で・・・・・・・・・また、お客様が別荘の方にいらっしゃった時は、度々大口で仕出しをご注文頂いたようで、随分ご愛顧頂いたようです・・・・・・それから・・・・・・・・・先々代の相田織機の社長様と奥様、そして多分ご主人様かと思いますが、ご子息様がこちらに写っておいでです。」


思いもよらない相田家の歴史を見ることになって、私もママも目を見開いて写真を覗き込んだ。

私の祖父母とか、曾祖父だとか・・・何かピンとこないけれど。

控えめな佇まいの先代の女将さんらしき人と、立派な男の人と、着物姿の凄く綺麗な女の人と写っている10歳くらいの美少年は、確かにパパだった。

白黒写真だけど、それがパパの美しさを際立たせている様で、目が吸い寄せられた。


「子供の頃は、こんな風に無邪気に笑う子だったんだねぇ・・・。」


ママが子供のパパを見つめながら、愛おしそうにそう呟いた。


「あの、もしよろしければ・・・相田家の皆様のお写真お持ちになりますか?」


突然の女将さんの申し出に、私はびっくりした。

そりゃぁ、パパの写真は欲しいけれど・・・でも、これらの写真はどれもこの料亭にとって大切な歴史で大事にしてきたものだとわかるから、安易にありがとうございます持って帰りますとは言えなかった。

それは、ママも同じ気持ちの様で。


「ありがとうございます。でも、これはこちらの大切な歴史ですから、お気持ちだけありがたく頂いておきます。また家族で、こちらへうかがいますので、その時に見せて頂ければ嬉しいです。」


少し切ない表情で、そう言った。

すると、女将さんはママの気持ちを悟ったのか、静かに頷いて。


「ぜひ、お待ちしております。」


と、頭を下げた。

何となくしんみりとした空気になってしまい、そろそろお暇しようかと言い出せずにいたら、女将さんがサッと空気を変える様にノリコを見てニコニコ笑いかけ。


「昔のお客様は、高貴な方や企業のトップの方などが多かったのですが、近年は季節を味わいにお越しくださるお客様も多くなりましてね。芸能人のお客様もいらっしゃいます。やはり、芸能の方は感性が豊かな方が多いですから、ご贔屓頂いています。風町様もまたのご利用をお待ちしております。」


そう言いながら、アルバムをまたパラパラとめくり、何人もの芸能人との記念写真を見せてくれた。

その写真の多くは、今の女将さんが移っており―――


「えっ!?・・・・藤城ふじしろ けんも来てたんですか?」


あるページが開かれた時、ミッチーが驚きの声を上げた。

その声に、女将さんがアルバムをめくっていた手を止め頷いた。


「はい、藤城様は20代の頃に映画撮影でこちらにロケにいらっしゃったことがありまして。丁度ツツジの季節で大変お気に召していただきまして。何度か、こちらでツツジの会をお仕事関係の方を招待されて開かれましてね。」


女将さんの説明に、ミッチーが食い入るようにアルバムを見つめた。

そこには、年代順に何枚もの写真が貼られていて、どれも楽しそうに皆笑っていた。


「まさか、お墓ばかりか、ここでもニアミスしてるなんてさぁ・・・やっぱり、ミッチーとエミ姉は縁があったんだねー。」


ノリコが何も言えずただアルバムを見つめるミッチーの肩をポンポンと叩きながら、敢えて明るい声でそう言った。

その言葉に、女将さんが首をかしげたから。


「ああ、この子の父親なんですよ。藤城剣さんって。色々あって、今度からこの子が『藤城剣記念館』とか雑多な権利の管理をすることになったんで・・・ミッチー、丁度いいじゃないか。今度この写真お借りして、パネル作って『藤城剣記念館』に飾ったら?女将さん、よろしいでしょうか?・・・ほら、ミッチー。仕事の名刺お渡しすれば?」


ママがミッチーのことを話し、ちゃっかりと『藤城剣記念館』に展示する写真提供依頼までしてのけた。

すると、今迄上品な笑みをたたえていた女将さんが、目を丸くして。


「ええっ!?藤城様の、息子さんっ!?」


大きな声を出した。

余程驚いたのだろう、今迄崩れなかった言葉使いが、少しフランクになった。

そして女将さんは、ミッチーがママに促されて出した名刺を受け取り。


「えええええええっ!?藤城様の息子がっ、あの、西にし かぞえ!?」


先程はフランクな言葉使いでも敬称を忘れていなかったが、今度は更に驚愕したのだろう・・・ミッチーの名前が呼び捨てとなっていて。

本当に素に戻るほど、驚いたんだろうなと可笑しくなった。





すっかりテンションの上がった女将さんに別れを告げ、敷地内にある駐車場へ皆で歩いていたら。


「今日は、綺麗な満月だねぇ・・・何だか、最後までいいこと尽くしで、今日は良い日だったよ。」


ママがしみじみとした声でそう呟くと、ノリコもうんうんと頷いて。


「本当に、良い日だったね。でも、やっぱりエミ姉とミッチーは・・・縁があったんだって、つくづく思ったよ。きっと、両家のご先祖様が2人を結び付けたんだよ。本当に、素敵な御縁だねー。」


突然、そんなことを言い出した。

その言葉は嬉しい反面、その縁の中にまるでノリコが関係ないような言い方に私はきこえて。

咄嗟に立ち止り、私はノリコの手をギュッと握っていた。


「何他人事のようなこと言ってんのさ。私たちの縁結びは、ノリコだよ。ノリコがいなかったら相田家の隣の猪熊家の墓には関わらなかったし、ノリコがレコード会社のテスト受けなかったら私とミッチーは出会ってなかったんだ。そもそも、ノリコがこういう性格だから、毒蛛扱いされて皆からビビられていたミッチーがノリコに懐いたんだし。それに、今日ノリコがいなかったら、女将さんの話はパパの所で終わってたよ。ノリコが芸能人だから、来店した芸能人の話までになったんじゃない。いや、それよりも・・・ノリコが私の妹になってくれなかったら、私はこんなに世話焼きな性格になってなかったし。世話焼きじゃなかったら、多分どこかでミッチーと会っていても、面倒で適当にあしらってたよ。つまり、ノリコがいなかったら、ミッチーとはそもそも結婚してなかった!」


ノリコがいかに私にとって大切か、一生懸命訴えたのだけれど。

余りにも一生懸命すぎて、ミッチーの表現が雑になってしまったようで。


「毒蛛扱いって・・・面倒で適当にあしらうって・・・そもそも結婚してなかったって・・・エミちゃん、酷いよぉ・・・。」


ミッチーが半泣きで、後ろから抱き付いてきた。

しまった、言い方を間違えて、面倒なことを引き起こしてしまったかもしれない・・・。

そんなことを思っていた私の顔が面白かったのか、ママが思わず吹き出して。


「フフッ・・・ミッチー、何、拗ねてるんだよ。何言ったって、もうあんた達は籍入れて結婚したんだろ?まぁ、ノリコが縁結びって意見には私も賛成だけどね。でも、その縁を繋いでいくのも切ってしまうのも、後はあんた達次第なんだ。努力が必要ってことさ。あんた達なら大丈夫だと思うけどね・・・だけど、縁って不思議なものだね・・・こうやって、つながっていくんだからね・・・。」


そう言って目を細め、私達3人を見つめた。




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