35、家族
11月末から12月はじめにかけて、ノリコはホテルでのディナーショーの仕事が決まった。
ノリコはトントン拍子にいい仕事が入って来て、まだデビューして間もないのに本当にありがたいことだ。
だけど、人気が出て知名度があがると、厄介なことが出てくる可能性もあるわけで。
いや、まだノリコに厄介事が出てきたわけではないのだけれど。
ノリコの親族の現状を調べてもらうようミッチーに頼んだ。
先日の内藤さん親子とミッチーの異母兄・姉の事件で、面倒な身内はこちらが幸せになると厄介事を引き起こす・・・そう実感したからだ。
内藤さんの息子の肇さんは、人気レシピを開発し地元の小さな洋菓子店を人気店にしたお父さんにずっと重圧を感じていた。
いや重圧と言うより、私に言わせたらコンプレックスから来る反抗心だと思う。
その上、肇さんのお父さんは商店街振興組合の組合長を長年務め、商店街を上手くまとめてきた人格者だ。
なのに、失礼だけどどうしてああいう性格の奥さんと結婚して、ああいう息子が生まれたのだろうかと以前から不思議に思っていたのだけれど。
証拠となるチョコレートボンボンをミッチーに渡したママは、突然、今迄噂にもなっていない内藤家の事情を話し出した。
元々あの洋菓子店は奥さんの実家で、肇さんのお父さんは中学を卒業してあの店に住み込みの見習いで入ったのだという。
そして、殆ど知っている人はいないけれど、実は肇さんとお父さんに血のつながりはなく・・・高校卒業後実業団に入りバレーをする為東京へ行っていた内藤さんが、ある日妊娠して戻って来て。
相手には奥さんがいるらしく、結婚はできないけれどどうしても産みたいと内藤さんは言い張り。
家の中で相当すったもんだがあったらしいけれど、『洋菓子ナイトウ』で15年勤め職人としても一本立ち出来るくらいの実力がついた肇さんのお父さんに白羽の矢が当たり。
肇さんのお父さんは身内の縁が薄く既に天涯孤独だったこともあり、当時の雇い主である内藤さんのお父さんに頭を下げられ、結局内藤さんと結婚して内藤家に養子に入ったのだった・・・・・という話を、肇さんのお父さんと仲の良かったレストランのご隠居さんから、ママは肇さんのお父さんが亡くなった後聞いたのだそうだ。
それは決して噂話ということではなく、図々しい内藤さん親子に肇さんのお父さんに恩があるママが振り回されないための忠告だった。
だからママは、今迄そのことは自分の胸にしまって一切口にしなかったのだとそこまで話すと、床に座らされた内藤さん親子をじっと見つめた。
そして、感情の無い声で。
「せっかく、窮地に陥った内藤さん一家をご主人が助けて、店まであんなに大きくしたのに・・・あんたたち親子は、ご主人の気持ちも努力も全部無駄にしたんだね。」
と、蔑んだ目で言い放ったママを、内藤さんも肇さんも唇をかみしめて睨み返した。
「なによっ。店を大きくしたって言ったって、元は私の両親の店だわ。交通遺児で天涯孤独だったあの人を拾ってやったのは私の父よ?皆、あの人を褒めるけれど、基礎があったからできた話でしょう?あの人ったら、面白みのない人だったわ。浮気こそしなかったけれど、1日中店の事ばかり考えて。本当に男としては、魅力のない人よ。」
「そうだよ、所詮血のつながりのない俺は、親父にとって子供だなんて思われちゃいなかったんだ。ただ、店の後継者っていうだけで。確かにうちの店のオリジナルのシュークリームは人気商品になったけど。低価格で薄利、あの商品だけじゃ一生あくせく働かなきゃいけないじゃないか。俺はそんなのまっぴらだ!」
内藤家の内情を知られてしまった以上今更取り繕う気もないのか、2人の開き直った態度と勝手な言い分に、もう言葉も出なかった。
店の事ばかり考えていたと内藤さんは言うけれど、肇さんのお父さんは年に2回きちんと休みを取って2人を旅行に連れて行ったり、結婚記念日には必ず『グランドヒロセ鎌倉』で内藤さんと亡くなる年まで食事をして、内藤さんにプレゼントも欠かさなかった。
それに、肇さんはフランスまで自費で10年近く留学させてもらっていたという。
お父さんが亡くなって店の後継者問題もあったと思うけれど、留学費用の捻出の事も帰国の理由のひとつだったらしい・・・これは、『Chicago』に飲みに来てくれた元『洋菓子ナイトウ』の職人さんから聞いた話だ。
結局、身内が関係していてミッチーは顔出ししてはいないとはいえ有名作詞作曲家であり、その上父親は昭和の大スター藤城剣だからと、今回警察には届けないことにした。
その代りミッチーは、悪さをした4人を連れて借金の事を含めて今回やらかした件で話を付けてくると、迎えに来たワンボックスカーに4人を押し込み、弁護士の粕谷さんに耳打ちをしてからどこかへ出かけて行った。
これでいいのだろうかと、何処か不安だったけれど。
ママも粕谷さんも蒲池さんも、ミッチーに任せようと意見が一致していたのでそれに従う事にした。
そして、バイクで来ているという国見さんと板部さんもそれからしばらくして帰り。
粕谷さんと蒲池さんは不法侵入された経路の写真を撮ってから監視カメラで撮った証拠画像を持って、東京の事務所へ急いで戻って行った。
思いもよらない大変なことがあったせいか、家にママと2人きりの状態に急に不安になった私は、家中の施錠を確認して回った。
最初は大袈裟だと思っていた今回の防犯工事も、こうなってみると勧めてくれたミッチーにひたすら感謝だ。
いつも私達家族は、ミッチーに守られている。
守ろうとする気持ち、それが本当の家族だと私は思う・・・。




