33、唖然
流石ミッチーだ。
預言しただけあって、以前バイクを届けに来て一緒にケーキを食べた板部さんとハイブランド店の店長の国見さん2人を、家の近くで待機させていたらしく。
サイレンが鳴ってすぐに、ジーンズにブルゾン姿の2人が玄関に飛び込んできた。
知らない人だったら私は恐怖に駆られていただろうけれど、2人とも面識があり話したこともあったから、すぐにミッチーが2人に警備(?)を頼んでいたのだと悟った。
「ああっ、よかった!板部さん、国見さん!リビング側の庭に誰か侵入したみたいなんです!今、工事業者の人が入っていて、その人が対峙しているみたいなんですけど!」
鳴り響くサイレンの大音量に負けないように、私が大声でそう捲し立てると、板部さんは失礼しますっ!と靴を脱ぎそれを掴んで家の中へ入って行った。
だけど国見さんは玄関で立ち止まり、硬直している内藤さん親子に目を向けた。
先日はスマートで穏やかな雰囲気だったのに、やはりミッチーのチームの人だからだろうか、2人を見る目つきはちょっと考えられないくらい迫力のあるものだった。
突然のサイレンに驚いていた内藤さん親子は、国見さんに見据えられビクリと体を硬直させた。
「エミさん、こちらは?先週から東さんが心配をしていて、俺たち交代で昼間こちらに何かないか見守っていたんですけど。この方たち、さっきこちらのお宅へ入る前に、人相の悪い派手な男女と裏の空き地でコソコソ話をしていましたが・・・もしかして、向こうで不法侵入した奴らがその2人かもしれません。」
「そ、そんなことあるわけないわっ!言いがかりよっ!失礼ねっ!」
国見さんの言葉に、慌てて否定する内藤さん。
だけど、その様子は落ち着きがなくて明らかに挙動不審だ。
ママはそんな内藤さんを見て、目をスッと細めた。
そして、肇さんが持っていた手提げ紙袋に手を伸ばし。
「言いがかりというなら、上がって話を聞かせてくれないかい?このチョコレートボンボン、今私たちは食べられないって言ったのに、信じられない位強引に勧めてきたじゃないか。その理由も聞きたいし、さっきはいらないって言ったけれどやっぱりいただくよ。」
ママはそう言うと紙袋を掴みかけた。
でも、その前に内藤さんが肇さんの手からサッと紙袋を奪い、身をひるがえして玄関から飛び出て行った。
その素早い身のこなしに唖然としたけれど、すぐに国見さんが追いかけた。
すると、肇さんも無言でその後を追うように飛び出したから、私もそれに続いた。
門から出ていく内藤さんとそれを追う国見さんの後ろ姿が見え、その直後に結構なスピードを出した4トントラックが家の前を通り過ぎた。
その瞬間。
「おいっ、何やってんだっ!」
門から出てしまっているから姿は見えないけれど、国見さんの焦ったような怒鳴り声が響いた。
一体何をしたのだろうと、慌てて私は遅れて門を出ていく肇さんの後に続くと。
「いいでしょう!?いらなくなった自分のものをどうしようと、勝手でしょう!?」
「だからって何で見も知らないトラックの荷台に、あんたが持っていた紙袋を投げ入れたんだよっ!?あの中にヤバい物でも入っていたのか!?」
国見さんがそう詰問しながら、内藤さんの腕をきつく掴んだ。
それを阻止しようと肇さんが国見さんに殴りかかる。
だけど、いかにも暴力とは無縁と言った様子の肇さんは、予想通り国見さんに軽くかわされそればかりかお腹に膝蹴りを入れられ、崩れ落ちた。
「肇!!ちょっと、肇になんてことをしてくれたのっ!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ内藤さんを目の前に、私の中の何かがブチリと大きく音を立ててキレた。
そして、ズンズンと国見さんに腕を掴まれた内藤さんの所へ大股で歩み寄ると。
ガッと、掴まれていない方の内藤さんの腕を私は掴み、思いっきりひねり上げた。
「きゃぁっ、い、痛いっ!!な、なにするのっ!?」
「うるせぇっ!クソババァツ!!てめぇらがおかしな行動をとってるって、さっきからミエミエなんだよっ!!いいから、来い!!不法侵入してたやつらと何を企んでたか、きっちり吐かせるからなっ!!」
そう言って、内藤さん改めクソババアの腕をきつく掴んだまま私は玄関に向かって歩き出した。
そして、東京でミッチーやグラスを割ったバイトの男の子にもブチ切れた私を見ている国見さんは、ゲラゲラと笑いながら道にへたり込んでいる肇さんをヒョイと担ぎ上げ私に続いて玄関に入ってきた。
玄関の上がり待ちに立っていたママは、リビングの方に目を向けた後私たちを険しい表情で見つめると、口を開いた。
「どうやら、侵入者は取り押さえてくれたようだ。とりあえずリビングできっちり話をつけようか・・・そうだ、あんた、ミッチーの仲間なのかい?悪いけど、ミッチーに連絡をつけられるなら、今の状況を説明して帰ってくるように伝えてくれるかい?電話はリビングにあるから。」
国見さんは承知しましたと答えた後、担がれたまま暴れる肇さんの靴を器用に脱がせると、一発お腹にパンチを入れて大人しくさせた。
そして、礼儀正しくお邪魔しますと頭を下げて、靴を脱ぎ家に上がった。
その様子を目の当たりにして観念したのか、私に腕を掴まれた内藤さんも靴を脱いで素直に廊下を歩きだした。
そして、リビングに入った途端、私はまた唖然とする羽目になったのだった。
何故なら、リビングが既に香水臭くなっており。
不法侵入で取り押さえられている男女の男性の方が、私と面識のある・・・不貞腐れた表情を浮かべたミッチーの異母兄の猪熊だった。




