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32、預言

今更ながら、ミッチーの勘の鋭さには呆れ返った。

もうこれは第六感とかそういう次元ではなく、預言者の域かもしれない。

そう実感する出来事だった。



「本当によく考えないでお願いしちゃって、ごめんなさい。でもね、恥ずかしい話だけど・・・長年面倒を見て一人前にした職人達に裏切られてね・・・うちのオリジナルシュークリームのレシピを盗って他店で商品にしてしまって・・・あの店で営業するのがほとほと嫌になっちゃって店を売ってしまったんだけど・・・やっぱり、肇は洋菓子の道しかなくて・・・相田さんのこのご自宅は雰囲気があるから是非お願いしようって思ったんだけど。帰宅してからよく考えたら、いくら広いからって今迄静かに暮らしていたご自宅をお店にするのは抵抗があったんだって、気が付いたのよ。それにここのおうちって、元華族の別荘だったんですって?何でも昭和初期に建てられたって。そんな貴重な建物にたくさんの人が出入りするのはやっぱり、良くないしね。私たちもあれから色々あたってみて、横浜の方で小さいながらも店舗を借りれることになったし・・・それにしても凄いわねぇ、ここ元々は相田さんのご主人のご実家の物だって小耳にはさんだのだけど、凄い資産家でその上ご主人は有名な画家だったんですって?おうちの中に飾ってある絵はこの間エミちゃんが全部お父さんの形見って言っていたけど、そう考えたら絵だけでも凄い資産よねぇ?」


先日のお詫びということで、それから1週間後再び内藤さん親子がやってきた。

ミッチーのいない、ママと私の2人だけの時間を狙ってきたのが見え見えで。

今日はミッチーが勧めた防犯対策の工事をしていた。それを理由に家には上げないつもりでいたら、先日のことがあったせいか珍しく内藤さんの方から玄関先で失礼すると先に言い出した。

普段図々しい内藤さんが遠慮なんて珍しい事もあるなと内心失礼なことを思いながら、玄関先でママと2人で応対をしていた。


「先日の件はうちがそちらの申し出に応えられないという事を理解してくれたら、それでいいよ。お菓子まで頂かなくても、うちは気にしていないからさ。ただ、資産も何も・・・私には子供がいるからそのまま残してやりたいだけさ。旦那の絵だって、エミにとっては亡き父親の形見で本当に大事にしているんだよ。このまま、家の中で飾って旦那を思い出しながら大切にしていくだけなんだから。内藤さんも大変だと思うけど、肇さんはまだ若いしちゃんと技術を持っているからね、頑張ればまた道はひらけるよ。」


何処から聞いたのか、うちの内情をベラベラ話し出した内藤さんを遮るように、ママはハッキリとそう言った。

うちの資産まで勝手に想像して、下品な事を言い出した内藤さんに私は腹が立ったけれど。

ママはご近所だし上辺だけでもわだかまりをなくしておこうと、取り敢えず先日の事については気にしていないという態度を取った。

まあ、下らない事は口にしないでさっさと話を終らせたいという気持ちもあるのだろう。

とりあえず謝罪を受け取ったから、今日の話はこれで終わると思ったが。

それまで内藤さんの後ろで黙っていた肇さんが突然一歩前に出て、先程気を遣わないでと受け取らなかったお菓子が入っているだろう無地の紙袋ををずいっと私に差し出してきて。


「せっかく持ってきたんだから、食べてよ。一口で食べやすいように作ったチョコレートボンボンなんだ。結構自信作だけど、エミちゃんや史子さんの意見も聞きたいと思って作ってきたから、遠慮しないで。良かったら今食べて感想をきかせてもらえたら嬉しいな。」


そんなことを言い出した。

言葉だけでとらえたら、横浜で新しくお店を始めるにあたっての商品開発に協力してほしいという事なのだろう。

でも、当の肇さんが私に向かって話しているのに、目を合わせることもなく抑揚のない早口でまくしたてたから、私は強い違和感を覚えた。

いや、違和感というより・・・何か嫌な感じがしたといったほうがしっくりくるかもしれない。

当然食べたくなんてないから、どうしようと考えていたら。


「悪いけどさぁ、私肝臓病だからあまり甘いものは良くないんだよ。だけど、元々甘党だからね、1日に甘い物の摂取量を決めているんだ。今日はその分もう食べちゃったからね、それ以上食べると体調が悪くなるかもしれないからさ。肇さんが感想を聞きたいって言うなら、2~3日待ってくれないかい?私やエミだけじゃなくてノリコやミッチー、マサルにも食べさせて感想聞いておくよ?私達2人だけじゃなく色々な感想を聞いた方がいいだろう?エミも今日はお昼が遅かったから、まだお腹いっぱいでチョコレートなんて美味しく食べられないだろうし、そんな時の感想なんて役にたたないよね?」


ママが上手い具合に助け船を出してくれた。

だけど、ホッとしたのもつかの間。


「なによ、こんな小さなチョコレート1つよ?大したことないじゃない。それに、お昼食べたばかりっていっても、これぐらいエミちゃん若いんだもの、食べられるでしょう?今、2人の感想を聞きたいのよ。」


内藤さんが強引にそう言って、肇さんが差し出した紙袋の中からキャンディーのように包まれたチョコレートを2つ取り出した。

それを構わず私とママに押し付けてきた。

強引にも程がある・・・というか、やはり変だ。

確かにいつも内藤さんは図々しいしこちらの都合なんて考えない人だけれど、こんな脈絡もない行動はしない。

ママもそう思ったのか、思いっきり眉をしかめ、とうとう口調が尖ったものになった。


「何で、今聞きたいのさ。私の体調管理を無視してまであんたたちに協力する気はないよ。悪いけど、これ持ってとっとと帰っておくれ。」


そう言うとママは私の手からチョコレートを取り上げ、自分に渡されたものと一緒に肇さんが持ったままの紙袋にそれらを放り込もうとした。

だけど、慌てた肇さんが紙袋を持った手でママの動きを阻止しようとしたので、チョコレートは紙袋に入らず玄関の三和土に落ちて傘立ての向こうへ転がってしまった。


「酷いっ、なんてことをするのっ!?うちのチョコレートがそんなに食べられないって言うのっ!?いいから、食べなさいよっ!!」


内藤さんが半ば発狂するように紙袋からチョコレートを掴むと、私たちに凄い形相で詰め寄ってきた。

だけど、その瞬間・・・。


―――ブー!ブー!ブー!ブー!ブー!異常がありました!


―――ブー!ブー!ブー!ブー!ブー!異常がありました!


―――ブー!ブー!ブー!ブー!ブー!異常がありました!


家中に大音量で、午前中に庭に設置されたばかりの警報機のサイレンが鳴り響いた。


その瞬間。


「何やってんだっ!?不法侵入だぞっ!!」


リビングに面した庭の方から、防犯対策工事業者の人の怒号が聞こえてきた。



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