31、峻拒
随分間が空いてしまいました。ボチボチ更新を再開したいと思います。宜しくお願い致します。
「ちょっと、またあなたなの!?人の話を立ち聞きするなんて一体どういうつもり?しかも、こんな昼間にこんなところに来て仕事はどうしたの?エミちゃんとお付き合いしているからって、インターホンも鳴らさずに勝手に入って来てっ。史子さん、ちょっと自由にさせ過ぎなんじゃない?女ばっかりの所帯に、こんな得体のしれない男がズカズカはいってくるのを許しているなんて。いつか困ったことに―――「ミッチーは得体のしれない男じゃないよ。ちゃんと身元も分かって、うちとミッチーの家の方とも挨拶は済んで、もうすぐこの2人は結婚するからね。それと、この家はエミが結婚するのを機にエミに相続するから、もうこの家のことはこの2人にまかせることにしてる。そういう話なら、丁度ミッチーが帰ってきたから、ミッチーにも話してやってくれないかい?」
ミッチーの登場とその言葉に対し、内藤さんが焦ったようにミッチーの行動を非難したら。
ママが早口で内藤さんの言葉を遮った。
ママの話の内容に固まる内藤さんと肇さん。
ミッチーは続きの間のソファーセットへ粕谷さんと蒲池さんを誘導すると、自分は私達が座るダイニングテーブルへやって来て、当然のように私の隣の席に腰を下ろし私の手を握った。
そして、向かいに座る内藤さんと肇さんを冷めた目で見据えると。
「史子ママ、大丈夫。ノリコを応援するってあたりから話聞いていたから。今日粕谷さんも蒲池さんもいるから、丁度いいよ。」
と、話の内容はわかっていることを告げた。
その途端、内藤さんの目が険しくなり。
「ちょっと、本当に立ち聞きしていたのねっ!?史子さん、あなた、早まらない方がいいわよっ!!こういう姑息なことする男に、財産を相続させたエミちゃんを嫁にやるなんてっ。この家も好き勝手なことされるわよっ!!どうせ、あなた、財産狙いなんでしょうっ!?」
なんてうちの事情まで口を出してきた。
完全な誤解の上、大きな御世話なのに・・・そう思って、いい加減にしてほしいと言おうとしたら。
「立ち聞きって言うかー、この家結構ダイニングの声って玄関に響くんだよねー。その上、オバサンの声って、キンキン声で嫌でも耳に入ってくるしー、内容が随分一方的なものだったからしっかり聞いておこうと思ったんだよねー・・・あ、そうだ。俺さぁ、エミちゃんをお嫁さんにもらうんじゃなくて、俺がここの家へ婿入りするんだ。そこ、違うからねー。それと、財産狙いって言うのも違うから。俺、前にも言ったけど、ちゃんと収入がある上・・・あんまり威張れないけど、親からの遺産がかなりあるしー、だから、別に困ってないし。そこの史子ママから紹介してもらった税理士さんに俺の財産管理してもらっているから、この話嘘じゃないよー。エミちゃんがここにずっと住みたいっていうから、この家をちゃんと守ってここに住もうって思っているだけだし。史子ママだって、俺の親になるんだから老後もなにも他人からとやかく言われることないしー。」
ミッチーがよどみなく言葉を並べると、内藤さんが怯んだ。
そこで私は立ち上がると、内藤さんと肇さんにニッコリ笑いかけ。
「うちでお店を開く話はハッキリ、お断りします。勿論絵もお貸ししません。うちにある絵は、私の亡くなった父の作品ですので、とても大切な物なんです。すみません、お客様がいらっしゃったので、これでお引き取りいただけますか?」
と、畳みかけた。
若干声が低くなったことと、笑顔でも目が笑っていなかったのは仕方がないと思う。
そのせいか、内藤さん親子が顔を引きつらせ私の言葉に素直に従ったことは、よかったのだけれど。
「史子ママもエミちゃんも優しいから、つけあがってるにしても、本当に図々しいよなー。」
きっちり玄関まで内藤親子を見送った私に付き添っていたミッチーが、ダイニングに戻り使ったティーカップを片付けながら忌々し気にそう言った。
「カフェのマスターに聞いたんだけど、大部分の従業員が辞めて店も回せなくなって、かなり苦しいらしいよ。何か借金もあるみたいで、店も売りに出してるみたいだし。先週、カフェに内藤さんのところのケーキ使ってくれって来たらしいんだけど、マスターの奥さん、内藤さんの事大嫌いだし断ったらしいけど・・・まぁ、あの息子の性格じゃ今更勤め人になるなんて無理だろうし。だからって、人の褌で相撲を取ろうってのはないよねぇ。あんたたちに話を振って悪かったけど、ミッチーもエミもはっきり断ってくれて良かったよ。内藤さんのご主人に私は恩があるからさ・・・内藤さんも私が無下にできないことをわかってて、ああやって無理言ってくるからねぇ。」
私とミッチーにママが申し訳なさそうな顔をした。
長い間商店街振興組合の組合長を務めていた亡くなった内藤さんのご主人には、ママが『Chicago』を始める時に世話になったらしく、中々内藤さんにきつい事は言い辛かったようだ。
確かに義理堅いママの事だから、ご主人に感じている恩を考えると内藤さんに対して無下にできないでここまで近所付き合いをしてきたのだろう。
私は割り切りができない、ママのそんなところが好きなんだけど。
だけど、そんなママの気持ちに胡坐をかくような内藤さんに対して、私は嫌悪を感じていたのも本当で。
返ってハッキリと断ることが出来て、ホッとしていたのだけれど・・・。
「うん、別にそんな断るくらい全然いいんだけどさぁ・・・俺、何となく・・・これでは終わんない気がするんだよねぇ。」
ミッチーがそんなことを言い出した。
日頃のミッチーの驚異的なカンの良さを身をもって知っている私は、背筋に悪寒が走った。
ミッチーはそんな私にいち早く気が付き、素早く横に来ると私の背をさすり。
「史子ママ、念のため内藤さんについて調べさせるよ・・・それと、ここの家ちょっと工事入れていい?防犯対策強化させたいんだけど。」
と、ミッチーが安心させるように、対策を口にした。
ママもそんなミッチーの言葉にホッとした様子で、任せると頷いた。
だけど、あんなにきっぱり断ったのに、本当に諦めないつもりなのかな・・・。




