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27、愛おしい命

あの日、ジュンヤという男の子がミッチーのマンションに早朝訪れた用件は、六本木で事故現場を目撃した人がいて、その事故がどうもおかしいという報告だった。

その目撃者と言うのが、ジュンヤ君の彼女で。

偶々事故があった場所のすぐ目の前の花屋でバイトをしていて、事故の一部始終を見ていたそうだ。

わざとではないかと思われるような無理な割込みと急停止で、避けられずに後方車が追突してしまった。

それでも後方車はスピードを出していなかったので、それほどの衝撃ではなかったけれど、追突された側が凄んで滅茶苦茶な事を言い出した。

明らかに言いがかりで、それもヤクザまがいの脅し方だったらしく、彼女は店から警察を呼んだが逃げられ。

追突した方は、店名入りのワゴン車に乗っていたから近所の『天ぷら きうち』の店の人だとわかっていて、気にしていたらその天ぷら屋がいきなり閉店してしまった。

そうこうするうちに、人相の悪い男達が店に出入りするようになり、近所もうろつくから怖くなって。

そして彼女の働く店では、作ったアレンジメントを写真に撮ってデータとして残すため、手元に偶々カメラがあった。

ジュンヤ君の彼女は、何かあった時のために隠れて天ぷら屋に出入りする男たちを撮影していた。

その写真をあの朝受け取っておけば、もっと早く色々な事がわかって事前に防げたはずだった。

だけど、よもやそんなことになるとは思ってもいなかったミッチーと私は、あの朝ジュンヤ君の話を流してしまったことに、今更ながら後悔したのだった。


つまり、やっちゃんが叶社長の葬儀に押しかけて来た男達を入れさせまいとして、そのうちの一人に刺されたのだ。

その押しかけて来たのが、その写真の男達で。

結果、警察がその場を離れたところから見ていて、その男達はとりおさえられて色々な事が明るみに出たようだけれど。

あの時、しっかりジュンヤ君の話を聞いていれば、もっと早く悪い奴らを調べることが出来て、やっちゃんは刺されずにすんだのに・・・。




「電話で戸田君から話を聞いた時はびっくりしたけど、今日ヤスシ君に会ったら、ケロッとしてた。よくよく話を聞いてみると、叶社長の葬儀に踏み込もうとしていた男達を適当にヤスシ君があしらっていたらしいんだけど。丁度、向こうからパトロールに来た警察が目に入って、わざと斬られに行ったらしいんだ。現行犯逮捕させようと思ったらしくて。そうだよね、ヤスシ君並の強さじゃないのに、なんであっさり刺されたんだろうって思ったけど・・・自分から、傷も浅くなるように、角度まで計算して斬られに行ったって・・・はぁ・・・ヤスシ君って、やっぱ普通じゃないよねぇ・・・それで、結局、色々向こうにとっては不利なものも持っていたみたいで・・・叶社長の事件、一気に解決しそうなんだよね。あ、この件は、ノリコに黙っていてくれって言われたから。」


やっちゃんが刺されたという話を、ミッチーから聞いて二日後。

夜帰宅後、私たちの部屋に入るなり、ミッチーは今日やっちゃんに会って話をしたと、詳細を教えてくれた。

だけど、やっちゃんのあまりの無謀さに、ムカムカと腹が立った。


一体、自分の命を何だと思っているの!

自分の体は、自分1人のものじゃないのに!

何かあった時、周りの自分を大切に思ってくれる人たちがどれだけ悲しむか!

ノリコのこと、悲しませることになるのに!!


そんな風に怒り狂う私に、ミッチーはうんうんと頷きながら。


「本当に、そうだよねー。でもさぁ、お母さんに泣かれて、お父さんにも怒られて、お仕置きもされて、かなりヤスシ君反省しているみたいだから。もうしませんって約束したみたいだよ?・・・それに、ヤスシ君・・・どうしても、叶社長の弔いの場を汚されたくなかったんだって。」


静かな声で、そんなことを言った。

弔いの場・・・そう言われてしまえば、何かがこみ上げて来て・・・何も言えなくなった。

そんな私の肩を優しく抱き寄せるとミッチーは、私にありがとうといきなりお礼を言った。


「え?何?・・・急に。」


「さっき、エミちゃんがヤスシ君に対して怒ったこと・・・一体、自分の命を何だと思っているか、自分の体は、自分1人のものじゃない、何かあった時、周りの自分を大切に思ってくれる人たちがどれだけ悲しむか・・・これって、俺にもそう思ってくれいているんだよね?この間、史子ママに横須賀の方を手伝うように言われた時に、エミちゃん俺を引き留めて、ここにちゃんと帰ってこいって言ってくれたよね?俺、凄く嬉しかった・・・ちゃんと自分の帰る場所があって、待っていてくれる人がいて、自分を大切に思ってくれる人がいて・・・だから、初めて、自分の命が大切なんだって思えた。俺なんか、いつ死んだっていいって・・・ずっと思っていたから。親の事で色々あって、ずっと孤独だったけど・・・今、その時の俺に言ってやりたい。周りに誰もいなくて、自分1人だって思っても・・・いつか、こうやって大切な人ができて、俺の事も大切に思ってくれる人ができるって。だから、命を、自分を大切にしろって・・・。」


小さな声でそう話すミッチーの声は、あまり感情が込められていなかったけれど。

でもそれは、泣きそうになるのを我慢しているからだろうなと思った。

私はそんなミッチーがとても愛おしくて、私もミッチーの背中に手を回した。

そして、ミッチーの顔を見上げて、少し前から考えていたことを口にした。


「私たちの入籍、10月29日にしない?ミッチーの誕生日。ミッチーが生まれてきた日を、もっと特別な日にしようよ?その前にノリコのデビューがあるからさ、色々忙しいと思うけど・・・式は、来年少し落ち着いてからにしよう。温かくなった頃がいいな・・・ミッチー、家族になろう?」


私がそう言うと、一文字に結んでいたミッチーの唇が震え、目から涙がボロボロと零れ落ちた。

私に返事をしようと試みるも、胸が詰まって声が出ないようで。

困ったな、こんなに泣かすつもりじゃなかったのに・・・と、思っていたら。


コンコンッ―――


私達の部屋のドアが、突然ノックされた。

そして、直ぐにドアの向こうから。


「エミ姉?私、お風呂出たよー。風呂桶の蓋、あけっぱなしにしているけど、直ぐ入る?入らないなら、蓋しておくよ?」


と、ノリコの明るい声がした。

だから、私も明るい声で返事をした。


「ありがとう、直ぐ入るから。蓋はあけたままでいいよ。お休み。」


私の返事にわかったおやすみと声をかけて廊下を小走りでかけていく、軽やかなスリッパの音を聞きながら、この音も私にとってとても愛おしいものだと思った。

それは、ミッチーも同じ気持ちの様で。


「ふふっ、ノリコは元気だなー。」


目を潤ませながらも、ミッチーが笑った。






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