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21、東京-6

久しぶりの更新となります。宜しくお願い致します。

男がジロジロと私を見るから、私も男を同じように不躾な目で見返していたら。


「エミちゃん、よそ見しないで。」


向いに座るミッチーが、物凄く不機嫌な声を出した。

ミッチーの顔はその声色同様、不機嫌極まりなく頬が膨らんでいた。

いや、35の男が頬を膨らませて自分の不機嫌を訴えるって・・・私が思っているよりも、35歳っていうのは大人ではないのだろうか。

まぁ、自分だって子供の頃20歳を過ぎれば大人だって思っていたけれど、実際その大人だと思っていた年齢を過ぎても、自分の中ではあまり変わっていないような・・・つまり、年をとったってこんなもんだって言うか――


なんて、ミッチーの膨れっ面を見つめ、そんなことをつらつら考えていたら。


「君、エミって言うんだ?」


不躾な男がいきなり私の名前を呼び捨てにして、覗き込むようにズイッと私に顔を近づけてきたから、私は思わず反射的にのけ反り。


「この失礼でキザったらしい香水臭いオジサン、知り合いなの!?」


と、ミッチーに尋ねると。

既に立ち上がってガシリとキザったらしいオジサンの腕を引っ張り、私から距離をとっていたミッチーがふきだした。


「ブハッ・・・アハハハッ・・・さすがっ、エミちゃんっ、そうきたかー・・クククッ・・・アハハハッ・・・別に気にしなくていいかから。このオジサン、限りなく他人な血縁者だし。」


限りなく他人な血縁者っていう表現がイマイチ把握できなかったけれど。


「オイッ、何だその言い方は!俺はお前の兄だぞ?兄に対してその態度は何だ!それに、この女も失礼だな!!」


オジサンがいきり立ってミッチーとの関係とミッチーと私の素直な態度に対して文句をつけてきたから、直ぐにミッチーの父親の先妻の子供だとわかった。

つまり、例の子供だったミッチーに余計なことを言ったしょうもない、私にとっては将来的に義兄か・・・うえぇ。

うん・・・これだけで、何か色々ミッチーの話が理解できたような気がする。

ノリコの父方の親族も厄介だったけれど、これはこれで面倒な親族だと思ったけれど。

ミッチーはそのオジサンの言葉には取り合わず、静かに席に座ると、ホール係りを仕草で呼び寄せた。


「顔見知りだけど、一緒に朝食をとるような間柄じゃないから、悪いけどこの人を別の席に案内してくれる?」


なんて、平然とした態度で言いつけた。

すると、黒服の責任者っぽい人がやって来てミッチーに黙礼をした後、オジサンに向き直り。


「猪熊様、恐れ入りますがお席にご案内致しますので。お連れ様も、お待ちです。」


と、この場を収めようとした。

どうやら、ミッチーもこのオジサンもこのホテルの常連らしい。

だからか、オジサンはその黒服の言葉を無視して。


「席なら、この横の席でいいぞ。久しぶりに弟と会ったから、話があるんだ。満、今年、親父の23回忌だ。その件で、連絡をしようと思ってたんだ。」


なんて、込み入った話を始めた為、流石に黒服の人も戸惑ったような様子で。

でも、ミッチーは凄く嫌そうな顔で、弁護士を通して連絡してくれたらいいと冷たい反応だから、どうしたもんかという空気になった。

だけど、そこでオジサンの連れの女の人が。


「ねぇ、お腹空いたんだけどぉ。ここ、景色が綺麗に見えるしぃ、奥に行くと窓側の席埋まってるからぁ、ここでいいじゃん?」


なんて言いながら、さっさと私たちの隣の席に座ってしまった。

座る時に私をジロジロと見てフンッと顔をそむけた態度に、ミッチーがキレそうになっていたから、私は慌ててテーブルの下で靴を脱ぎ、その足でミッチーの足を小突いた。


「ミッチー、いいから早く食べて。」


こんなところで、これ以上騒ぎ立てられたら本当に面倒なことになる。

そう思っての行動だったんだけれど、私はやり方を間違えたのかミッチーの意識はその女の人から、一気に私に向いて・・・・。

いやいやいや、何でミッチーは腿の間に私の足を挟み込むの!?

そりゃぁ、膝か脛を小突くつもりが勢い余って足の間に入ってしまったのだけれど、だからって、私の足を拘束したまま頬を赤らめないでほしい!!


「もう・・・エミちゃんってばぁ・・・本当に、俺を翻弄して・・・これ以上、どうしたいのー?」


「どうするつもりもないってば。ただ、早く食べてマンションに戻りたいだけ。」


「ええっ・・・な、なんかエミちゃん積極的だね・・・フフッ・・・俺、凄く嬉しいんだけど?よしっ!じゃあ、早く食べて、マンション戻って愛の確認しよう!」


そう言って、腿に挟んだ私の足を手で撫でだしたから。


「何勘違いしてんの。昨日使ったタオルや下着を洗濯したいの。掃除もしておきたいし。ずっと私の家に泊まりっぱなしだから、今日やっておかないとこまるじゃない。また、当分来ないんだし。」


ピシャリとそう言うと、私は反対の足でミッチーの脛を蹴り飛ばした。

勿論、靴を履いたままだ。


「っっ・・・。」


腿に挟んだ私の足に集中していたせいか無防備な脛に見事ヒットしたらしく、ミッチーの腿の拘束力が緩んだ。

その隙に、挟まれた足を素早く下ろして靴を履き、私は何食わぬ顔でフレッシュジュースを飲み干した。

すると、テーブル下の攻防を知らないであろう隣の席に座ったオジサンが、無遠慮に話しに割り込んできた。


「なんだ、満・・・お前、ずいぶん性格変わったな・・・このコと付き合ってんのか?なら、兄の俺に紹介しろよ。」


「別に、あんたのこと兄だなんて思ってないから。23回忌の件も、別に俺無視してくれていいから。葬式以降、法事なんて声がかからなかったのに、今更何だよ。」


不機嫌を通り越して完全に氷のような表情で言葉を返すミッチーに、私はこのオジサンに対してミッチーの心情が透けて見えて切なくなった。

私にとって『きょうだい』って妹のノリコのことだけど、私達のつながりを考えるとあまりにも彼らのつながりは酷いものだ。

でも、考えてみると・・・ママと妹であるノリコの母親だって同じようなものだった。

結局は、人を思う気持ちの問題なんだけど。

そう思ったら、すげなく蹴り飛ばしたミッチーに対して、ちょっとやりすぎたかなと反省の気持ちが湧いてきた。

それと同時に、このオジサンに対して怒りもふつふつと湧き上がり。


「おいっ、そういういい方はないだろう?大体、お前がとんでもなく荒れて手が付けられない状態だったから、声もかけられなかったんだろう?最近ようやく落ち着いてきて、仕事もそれなりに評価されるようになったから、兄弟づきあいもできるだろうと思って声をかけてるのに。何だ、その言い方は!」


なんて、勝手な言い分が、益々私の怒りを燃え上がらせる結果となった。

兄弟なのに、寄り添わずにミッチーが荒れている状態を放置しておいて、なんなんだ!

しかも、ミッチーが荒れる原因となったなったのも、コイツの無責任な言葉からだっていうし。

よし、徹底的にやってやろうじゃないの!そう心の中で決心した私は、丁寧にオジサンに頭を下げると。


「私、満さんの婚約者の相田江見といいます。先日、結城家の方にはご挨拶は済んだのですが、そちらの方へはご事情もおありということで、控えさせていただいていたのですが・・・こうやって偶然にもお目にかかることが出来て、よかったです。ご都合がよろしければ、改めて近々ご挨拶にうかがいたいのですが・・・あの・・・よろしければ、お名刺頂けますか?」


そう言って、ニッコリと微笑んで見せた。

その途端、オジサンはデレッとした顔で直ぐに名刺を出してきて、オジサンのツレの彼女は凄い顔で私を睨み。

そして、ミッチーは・・・私の微笑みに何かを感じたのか、ブルリと震えた。




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