20、東京-5
久しぶりの更新になります。仕事が立て込んでいて、中々PCにむかう時間が取れませんでした。年末に向けて、まだまだ時間がとりにくいかと思います。更新間隔があいてしまうかもしれません。申し訳ありませんm(__)m
早朝だったので、お手洗いから戻った私の手を取りもうひと眠りしようとベッドに向かうミッチーを、私はシャワーを諦め無理やり散歩に誘った。
ベッドに入ったが最後、もうひと眠りなんてさせてもらえないことは目に見えているし。
それに、ここは鎌倉ではないから浜辺はないけれど、それでも何となくミッチーの地元の朝を2人で歩きたくなったのだ。
私の誘いに最初は乗り気でなかったミッチーだったけれど、もっとミッチーを知りたいからと言うと打って変わって上機嫌になり、いそいそと出かける支度を始めた。
ある意味、扱いやすい男だ。
「街をひとまわりしたら、昨日の1階の店でモーニングを食べようよ。それから、ランチはイタリアンでどうかなぁ?人気店らしいんだー。後輩がバイトしてるんだけどね。」
そんなことを提案しながら、楽しそうにミッチーは私の手を取り歩き出した。
都会もまだ寝起きと言った様子で、車の通りもめったになく昨夜の喧騒が嘘のようにシンとした空気が漂う。
六本木ってテレビや雑誌でお洒落な店ばかりが並ぶ街・・・というイメージがあったけれど、渋い雰囲気の天ぷら屋や年季の入った蕎麦屋、純喫茶、理髪店、薬局、和菓子屋、酒屋なんかが建ち並ぶ一画があり。
そして、それから少し行くと交番があって・・・そこを通り過ぎるときに、ミッチーが不自然なほど脇目もふらず早歩きになったことには笑ったけれど。
「・・・中学くらいからさぁ、かなり荒れて・・・結城家とこっちのマンションを行き来して・・・ここの警官にバッチリ目をつけられてたんだ。とはいっても、今いる警官は当時を知らない人なんだけど・・・しょうがないじゃん、もう習性なんだよー。」
ゲラゲラと笑う私にミッチーが不貞腐れたようにそう言った。
そう言いながらも早足は止まらないから、あっという間にそこを通り抜けた。
暫くすると、先程の一画とは雰囲気ががらりと変わり。
滅茶苦茶お洒落で高級そうな街並みが目の前に現れた。
そうだ、テレビや雑誌で取り上げられている六本木の街だ。
ブランド店や、お洒落なカフェ、レストランらしき店が立ち並んでいる。
実際に目の当たりにすると、より一層素敵な雰囲気だ。
流石地元と言うか、ミッチーは道1本奥に入りなれた足取りで迷いもなく、進んでいく。
表通りから外れても、凄く素敵な街並みだ。
1本入った方が、何となく隠れ家っぽい店があったり、変わった造りの店が多くて。
何となく探検しているみたいで、ワクワクとしてきた。
「あ、この店でランチしようと思ってるんだ。結構旨いよー。」
二階建てのシンプルな白壁のレストランの前を通りかかった時に、ミッチーがその店をそう言いながら指さした。
白壁にレンガ色の鉢植えに色とりどりの花が咲いたものがとても映えた、素敵な店構えだった。
窓枠と色をそろえた濃い茶色の木製の看板を見ると『Genova』と書かれていて・・・。
「ええっ、ここっ、『ジェノヴァ』なの!?」
私は思わず興奮して、声を上げてしまった。
そうだ、ここは六本木だった。
なぜ、今まで思い出さなかったんだろう・・・。
私のテンションがいきなりあがったので、ミッチーが驚いた顔をした。
「エミちゃん、この店を知ってるの?」
「うん、前に東京に住んでた時にママの友達が、ここの店で色々テイクアウトしてきてくれて。特にラザニアが凄くおいしかったから、どこのお店?って聞いたら、六本木の『ジェノヴァ』だって教えてくれて。多分ママはあんまりそういうの気にしない人だから覚えてないだろうけど、いつか食べに行きたいって思ってたんだ。そうしたら、この間雑誌に今人気でお洒落な人が集まる店特集っていうのにこの店が紹介されていて、ますます行きたいって思ってたんだ。ミッチー、凄く嬉しい!」
私がそう言うと、ミッチーは嬉しそうな顔でよかったーと、つないでいる手をブンブンと振った。
交番の前とは異なり上機嫌になったミッチーは、ふいに空を見上げた。
私もつられて上に視線を向けると。
結構な数のカラスが集団で飛んでいた。
まるで向かう場所が決まっているような飛び方だなぁと思った。
私達がやってきた方向へ向かっているようだけど、ミッチーのマンションの周りって特別カラスが喜びそうなものってなかったよね・・・?
近所の商店街も凄く清掃が行き届いていて、カラスが突っつきそうなゴミなんて目につかなかったし。
「え、こんな早い時間からカラスっているの?しかも、結構な数・・・。」
朝焼けの中、黒いカラスが飛ぶ景色は本当に違和感があって。
私が不思議な思いでそれらを見ていると、はぁ・・・と何故かミッチーがため息をつき。
「六本木のカラスは、変わってるんだよ。」
と、うんざりとした表情でそんなことを言った。
「考えてみたら私、コンチネンタルブレックファーストって食べたことなかったなぁ。アメリカンブレックファーストはあるけど・・・。」
私は、目の前の真っ白なテーブルクロスの上に置かれた、眩しいくらいの白い食器の中身を見ながら、フレッシュジュースの清々しさと、フルーツの美しい彩にうっとりとした。
「うん、卵料理がないから何となく物足りないような気もするけどねー。まぁ、昼はイタリアンだから、朝は軽くでいっかー。」
決して軽くないはずなのに、ミッチーは軽くて・・・と言いながら、給仕の人が差し出すパンのかごから8個選ぶって・・・全然軽くないじゃんと密かに心の中で突っ込むけれど。
でも、こんな素敵な空間でのんびりと朝食を食べさせてもらえるなんて、ありがたいことだと、その突っ込みの言葉は飲み込むことにした。
ミッチーはマンションの1階の店で朝食を食べると言ったのに、何故か急に裏道を通り抜けると、少し歩いて赤坂の大日本ホテルに私を連れて行った。
え、ホテル!?と少し身を硬くしたらミッチーはクスリと笑い、ここで朝飯食べようーと言い出したのだった。
ええっ、朝食食べるだけなのに、ホテルのレストランって・・・滅茶苦茶贅沢じゃない!?
10階のレストラン、『Juliet』から見える景色は素晴らしくてパンにバターを塗ながら思わずうっとりしてしまったけれど。
よく考えたら、ミッチーの部屋はこの10階よりも高層階だったから、ミッチーの部屋の景色はもっと素晴らしいだろうということに気がついた。
「今度来た時は、ミッチーの部屋で朝食を食べよう?」
日常こういう高層階から景色を眺める機会がないから、思わずそんなことを言ったら。
「あー・・・そうか。夜景ってだけじゃなくて、エミちゃんはこういう高層階の景色が好きなんだ。じゃぁ、エミちゃんとデートは見晴らしのいいレストランとかがいいのかなぁ・・・あ、『グランドヒロセ鎌倉』に今度ご飯食べに行こうか?」
なんて嬉しい提案をしてくれた。
でも贅沢だから、偶にでいいと言ったら。
「俺がエミちゃんを連れて行きたいんだよ。いいじゃん、お互いちゃんと働いているんだし。」
と、譲らないので私はあいまいに頷いたら、ミッチーがムゥッとした顔で小指を出してきた。
どうやら約束をさせて実行に移そうと思っているらしく、鼻息荒く私に小指出して!と迫ってきたから面倒で渋々小指を出しかけたら。
「へぇ、珍しいじゃないか。お前がこんなところにいるなんて。」
顔立ちは悪くないけれど、やたらとキザったらしい男が嫌味な様子でいきなり声をかけてきた。
この文中に登場する六本木は実際の六本木とは異なります。お店や建物等実際には存在致しません。すべてフィクションです。




