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11、遠慮のない関係

弁護士の粕谷かすやさんと税理士の蒲池かばいけさんに、ミッチーの件はまかせることとなった。

どうやら、今までミッチーが頼んでいた弁護士と税理士は東京でも評判がよくないことで有名らしく、事情を話す前に書類に記載された名前を見た途端、2人とも顔を顰めた。

それで経緯を話すや否や、これは絶対にそのままにしてはいけないとママとミッチーに強い口調で言い出した。

ミッチーはママの紹介で信用できると思ったのか、おまかせしますとすぐに頭を下げた。

その途端、粕谷さんも蒲池さんも上着を脱ぎ、真剣な顔で書類を広げ作業をいきなり始めたから、私はお茶と簡単につまめるものを用意しに台所へと向かったのだった。


考えてみたら、ママもミッチーも私も、話に夢中になりお昼を食べていなかった。

多分、粕谷さんも蒲池さんもいきなりママに呼び出され慌てて飛んできたであろうから、昼食は抜いたに違いない。

私は少し考えて、明日の朝フレンチトーストでも作ろうと思って買っておいた、業務用の食パン1本と、ベーコン、玉葱、ピーマン、チーズを取り出し、ピザトーストを作ろうと準備を始めた。


「エミちゃん、何作るの?俺、エミちゃんのお弁当まだ食べてないから、ここで食べようって持ってきたんだけど・・・それも、食べたいな・・・いい?」


何故か私にくっついてきたミッチーが、私の後ろから手元を覗き込んできてそんなことを言い出した。


「あ、そうか。ミッチーはお弁当持って行ってたっけ・・・え、あの量のお弁当食べてその上、ピザトーストなんて食べられるの?お腹壊さない?」


ミッチーの言葉に驚いて振り返った私に、ミッチーはタイミング良くチュッとキスをすると。


「ふふ。全然余裕だよー?俺さぁ、大食漢なんだよ・・・って、ピザトースト作るんだ?うわぁ、楽しみ!絶対に美味しいよねぇ。」


と上機嫌でそう言った。

私はそれを聞いてとても驚いたけれど、それよりも。


「え、それなら・・・もしかして、食事とかお弁当の量って、ミッチー今まで足らなかったの?」


もしかして、遠慮してお腹いっぱいになっていなかったんじゃないかと心配になった。

だけど、それは私の杞憂だった。


「ううん、それは全然大丈夫だったよ・・・そうじゃなくて、やっぱり・・・さっき、エミちゃんに話しておいてよかったってことか・・・ちゃんと説明できるから・・・あのさ、さっき俺、昔少年院に入ったって言ったよね?結構悪さが酷かったから、2年近く入ってたんだけど。俺、金は持ってたから・・・捕まるまで結構贅沢な生活でさぁ・・・東 幾の金もあったけど、そっちは意地でも手を付けない!って思って使わなかったけど。父親の藤城剣の方の不動産の収入が結構な額で。里子に出されたけどうまくいかなくて、中学ぐらいから1人暮らししてた・・・相続された六本木のマンションで。で、まぁ・・・好き勝手に生きてた。だけど、捕まって。いわゆる矯正施設だから、食べ物って質素なんだよね、当たり前だけど。でもさぁ、俺って元々結構食べる方だったから、量も足らないし、舌もあわない。だけど、それを食べるしかなくて・・・結果、滅茶苦茶飢えた状態だったんだ。だから、院を出てから反動で凄く食べるようになって。というか、普段は人より少し多め位の量なんだけど・・・甘いものや魅力的な食べ物を前にしたりすると、食事の後でもどうしても食べたくなっちゃって・・・我慢できないって感じなんだよね。」


ポリポリと頭を掻きながら、困った顔で話すミッチーを見て。

私は、この先ずっとミッチーが満足できるようなものを食べさせたいという気持ちが、情熱のようにグラグラと心の奥底から湧きあがって来るのを感じた。

それは、ガリガリでボロボロのノリコを見た時と同じ感覚で。

だから、結局・・・私たちは家族になるんだろうなと、妙に納得してしまった。


「そうなんだー。まぁ、美味しく食べてくれるならいいけど・・・じゃぁ、ミッチー悪いけど、ピーマン洗って、玉葱をむいてくれる?」


私は何でもないことのように相槌を打ち、遠慮なくミッチーにピーマンと玉葱を渡した。

すると、ミッチーはパァァッと明るい顔になって、私に抱きついた。


「エミちゃん、大好きっ!・・・俺、ちゃんと・・・結城家に行って元の家族に謝ってくるから!」





ミッチーがうちに来てから、正直とても助かっていた。

掃除や力仕事、ちょっとした家の事を手伝ってくれたり、店でも洗い物から気づいたことをドンドン手伝ってくれて、私の負担はとても減っていた。

それが、うちに泊めてもらっているからという恩返しのようなものではなくて、ノリコのように家族だから手伝うのは当たり前という感じで、楽しそうにドンドン手伝ってくれて。

あげくの果てに、病気で仕事ができなくなりふさぎがちだったママの話し相手・・・というか、ミッチーが話したいからという様子で会話を楽しみ、ママまで明るくしてくれて。

実際、私たちの生活はミッチーありきになっていて、私たちもミッチーも遠慮をしないで日々を送ることがもう当たり前になっていた。


そんな中、事件が起こった。

事件というか・・・ノリコの幼馴染で私も昔から弟のようにかわいがっているマサルが、もめ事に巻き込まれたのだった。

朝、レッスンに向かうノリコとミッチーが出かけようとした時、憔悴した制服姿のマサルがやってきたのだった。

ノリコは中学を卒業して高校へは行かなかったけれど、マサルは横須賀にある湊学園という高校の2年生だ。

本当はノリコには高校へ行ってほしかったんだけど、私が高校へ行かず店の手伝いをしたから、ノリコは成績が良かったにもかかわらず遠慮して、私とママがどれだけ言っても高校へ進学することはしなかった。

私は単に勉強と集団生活が嫌いで、店と家のことをやりたかったから高校へ行かなかっただけなんだけれど、それをノリコが進学をしないと決めた時にとても後悔した。

だけど、まぁ・・・今はノリコも歌手を目指して頑張っているから、高校へ行かなかったことも結果オーライかと思っているのだけれど。

親友で幼馴染のマサルを心配したノリコがレッスンを休むと言い出したから、もちろんミッチーも休むと言い出し。

憔悴したマサルを見て私も心配になり、すぐ家に上げ話を聞いたら。

マサルが高校のOBにカツアゲをされかけて、それを『Chicago』の常連のヤスシという男が庇ってマサルを逃がした後、カツアゲをしていた奴ら8人をボコボコにして、全員入院する大けがを負わせたらしく。

そのうちの1人が、横須賀にあるヤスシの実家の魚屋の得意先、料亭のオーナーの孫で。

一方的に孫から話を聞いて怒った料亭のオーナーが、その魚屋に怒鳴り込んで店先で孫が暴力を受けて入院になったと騒ぎたて取引停止を言い渡したという話を聞いて、マサルは自分の所為で大変なことになったと、相談に来たのだった。

どう考えても、悪いのはヤスシじゃなくて、その料亭の孫だと思うんだけど。

皆もそう思っていたら、マサルが青い顔で。


「俺が、カツアゲを拒否しないように俺の同級生を人質にされたから・・・俺、金なんて持っていけないし・・・保身用に、ナイフもって呼び出されたところに行ったんだ。そこは、横須賀だったから、その途中で、ヤスシさんが俺を見たらしくて・・・ノリコの幼馴染だって、様子がおかしいって後をつけてくれてたみたいで。だけど、ヤスシさんが来る前に・・・相手が8人もいて、ナイフや鉄パイプ持ってって・・・怖くなって、俺・・・持ってたナイフ振り回したら・・・1人の腕にナイフが当たっちゃって、血・・・血が出て・・・どうしようって思ったときに、ヤスシさんが現れて、状況を見て直ぐに察したみたいで。俺からナイフ取り上げて、あとは任せろって・・・俺と同級生を逃がしてくれたんだ。ヤスシさん、すげぇ強いっていうのを聞いていたから、相手8人いたけど・・・多分大丈夫なんだろうって、思って・・・俺、逃げちゃったのも、今すごく後悔してる。多分、ヤスシさん俺を庇って、何も言わないで相手に言われっぱなしなんだと思う・・・だから、俺っ・・・ちゃんと説明して、ヤスシさんは俺を庇ってくれただけだって、悪くないって言いに行きたいんだ・・・それで、あの・・・もしよかったら、ノリコ・・・ついてきてくれない?」


状況と自分の気持ちをきちんと述べた。

だけど、ヘタレのマサルは流石に横須賀へ1人で行く度胸はなかったらしく、ノリコに付き添いを頼んできた。

まぁ、ノリコとマサルは昔から頼りあってきたからね。

それに、ヤスシは『Chicago』の常連でもあるけれど、ノリコのイイひとだ。

まだ付き合うまではいっていないようだが、お互い惹かれあっているのは一目瞭然で。

ヤスシという男は、今の話を聞いてわかるように、バカみたいに強い男で。

ちょっとおかしいんじゃないかと思うほどの暴れん坊で、以前『Chicago』でも大暴れして店の客を何人も気絶させ、店をグチャグチャにした。

その時のヤスシは、ゾッとするくらいの凶暴さで、誰も止められなくてどうしようかと思っていたら。

突然ノリコが冷水をぶっかけ、金属製のトレーで思いっきりぶん殴り、ノリコの真っすぐな心のまま説教をしたら、ヤスシは信じられない位おとなしくなった。

おまけに、それからノリコの歌うブルースに引き付けられるように店に通い出し。

ノリコの歌を聴いたヤスシは、猫のようにおとなしく穏やかで。

元々の性格は、マサルを庇うような男らしさと優しさがあって、おまけにハンサムではないのに妙に魅力的で、どこか哀愁があって・・・そんなの、ノリコのような情が深い女にはたまらない相手だ。

ノリコはそんなヤスシに惚れているのだろう・・・多分、初恋のはず。

ヤスシの凶暴性に不安はあるけれど、だけど良い男だと思う。

まぁ、男と女なんてなるようにしかならないから、外野がどうのこうの言ったってどうしようもない。


ヤスシが絡んでいることもあり、ノリコはすぐにマサルについていくと答えたら、一緒に話を聞いていたママが、横須賀で顔がきく人を知っているからと連絡をとってくれた。

だけど、その顔がきくと言う人は・・・前に私が1度寝て振った男の養父で。マサルの話を聞くから来いと指定された場所は、その男が支配人をしているキャバレーで。

内心、あんまりその男に会いたくないと思っていた私だけれど、マサルとノリコだけで行かせるわけにはいかないから。


「ノリコ、私も一緒についていくよ。」


と声を掛けたら、ノリコが微妙な顔をした。


「だって、そこって支配人は、ヤスシの友達の・・・だから、エミ姉はちょっと・・・。」


ヤスシのツレということもあり、ノリコも何となく私の何があったのかを察していて、私がその男と顔を合わせるのはマズいんじゃないかと、心配してくれた。

もちろん、ミッチーの手前、言葉を濁してくれたのだけれど。


「ノリコ、俺がついていくから。いくら昼間でも、未成年だけでキャバレーなんて行かせられないよ。そ・れ・に!何か、男のカンっていうの?エミちゃんは、そこへ行かない方がいいんじゃないかって、思うんだよねぇ?」


どうも、ノリコのはっきりしない言葉で、ミッチーは何か気が付いたようで。

チラリと私をみたその目は、ギラリとしていて遠慮もなく。

私がついていくと言ったらダメな雰囲気を、醸し出していた。

『Chicago』でも、普段話をしていても、何となく・・・ミッチーは嫉妬深いんじゃないかと薄々感じていたけれど。

この遠慮のない雰囲気は、確定だろう・・・。



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