残酷な宣言
側室でありながら不義を働いたとして斬首の刑に処せられた侯爵家の姫が処刑された瞬間、その姿が消え黒衣の魔導師が処刑台の上に立っていた。
「異界から迷いこんだ姫を寵愛するあまり、己の不都合を闇に葬り去る暴君となるか」
静かに囁くような声がその場に響き渡る。
「直系の後継であり、正統な血筋を残す為に選ばれ授かった命を散らした陛下は自分の愚かさを認識していなかったようだ」
後継者に恵まれず、遅く授かった若き王は魔導師の言葉に顔色を変え、自分にしがみつき震える妃を抱き締める腕を緩めた。
「己の欲に忠実で後先を考慮出来ない世界から迷い込んだ選ばれし妃よ、其方を元の世界に帰すことは可能だが、邪魔者が消えた今となっては帰りたくも無いだろう?」
びくりと体を振るわせ硬化する妃。
「其方の無神経な振る舞いに友人に避けられて孤立していた世界よりも見目麗しい権力者の妃として思う存分にこの世界で我儘に過ごすがよい。この世界は後継を得られず滅ぶだけだ安心して暴君に振る舞われよ。
先の決めれていた妃を大事に賢君として栄えるか後から現れた異界の妃に溺れ暴君となり滅びるかの違い。神の下したお告げは確かにこの瞬間にここに成就した」
魔導師の声にその場がざわめき、その声が波紋のように広がる。
「神が認めし正統なる姫が宿した御子はそれを
待ち望んでいる世界に送ろう」
魔導師が処刑台の上で両腕を挙げ、何かを告げた瞬間、空より光が射し込んだ。
魔導師を照し、その光が消えると魔導師の姿も消えていた。
夢でも見ていたようにハッとなった衆人観衆は王と妃を見上げ、その表情に嫌悪を浮かべた。
神託を下した神官達はオロオロと集り何かを話し合っている。
王の視線は処刑台の上に向いていた。
そこにあるはずのモノが無い事に気が付き、自分が犯した非道に妃を見る。魂が抜けたかのような蒼白なまま動かない妃に王も動けなくなった。
「歪んだ歪みを辿れば、おもろいことに成っていたね?
アルトゥール、そちらの世界で姫には新たな人生を、御子には賢君の後継としての本来の世界へ送って欲しい」
「仰せのままに」
声は、闇に吸い込まれるように消え、静寂に閉ざされた。