舞踏会2
前話の続きです。
この話も女性を貶める表現があります。苦手な方は読むのを辞めてください。
「何のお話でございましょう。皇子殿下と私ではお話が弾むとは思えませんが?」
「お前、国賓の私に喧嘩腰とは何のつもりだ!」
「失礼ながら、先に喧嘩腰で来られたのは貴方様ですよ?」
「っ、それは!」
「初対面の女性に対するあの態度。もう一度、マナー講座を受け直した方がよろしいですわね」
「口ばかり達者な女に言われ――」
ガゴン!!ブシュー!
噴水の上の部分が吹き飛ばされ、大量の水が噴き出した。サリアナの右ストレートが決まった結果である。
「先程から黙って聞いていれば、女性に対する蔑視が酷いですわね」
「どこが黙って聞いているんだ?!1度も黙ってないだろうが!」
さすがに身の危険を感じたのか、ジリジリと後ずさる皇子。
「貴方様のお言葉すべてに反論したいところですが、どうしても言いたいことが1つございます『女は子を産むしか出来ない』と仰いましたね?」
「それがどうした?!」
「子を産むことだけが妻の存在意義ではございません。訂正をしていただきますわ。たとえお子を授かることが無くともお互いを支え合い、仲睦まじく過ごす方々もいらっしゃいますのよ」
パッと扇子を開いて優雅にあおぎ、興奮して少し火照った頬に風を送り、自身を落ち着かせる。
「それに『子を産むしか』と仰いましたが、出産は命がけですのよ?男の方はその痛みに耐えられないと言われておりますの。それほどの痛みと危険が伴うものなのです。お分かりですか?」
チラッと見て、
「貴方様ではその痛みに耐えられないでしょうね」
クスッと笑いながら言い放つ。
「言わせておけば!!」
「お聞きなさいませ」
パチン!と扇子を畳み、静かにサリアナが言うと皇子は動けなくなった。軍事大国で育ち、まだ戦場に出たことは無くとも訓練は受けている自分が、貴族令嬢の威圧を受けて動けないとは…。
皇子に冷や汗が流れた時、ライトアップされた庭園の灯りが、噴き出した水に反射してキラキラ輝き、サリアナを後ろから照らし出した。綺麗だった。その噴き出してる噴水を破壊したのは彼女だが…。
今度は、先程とは違う意味でサリアナに目が引かれて動けなくなった。
そんな気持ちも知らずに彼女の話は続く。
「いいですか?本当に出産は命がけですのよ?出産の時、自分の命を縮めても子供を産む女性もいるのですよ」
「そんなどこかで聞いたような話など、どうでもいい」
拗ねたように返す皇子。
「どこかで聞いたような話ではなく、私の母の話ですわ」
「………」
「とにかく、貴方様は女性に対する態度、言葉が酷すぎますわ。何か女性で嫌な思いをされたことがあるのかもしれませんが、それを他の女性に向けるのはお止めくださいませ」
サリアナはベンチに座ると、隣をポンポンと叩いて皇子に座るように促す。
しぶしぶ隣に座る皇子。
「いいですか?まず―――――――――――――――」
…サリアナの説教は2時間続いた。
ベガルータ皇子の侍従が探しに来て、死んだ魚のような目をした皇子を回収しなければ、一晩中でも説教は続いたかもしれない。
自業自得の皇子様は疲労困憊になりました。
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舞踏会が終わって別室でカールとお茶をしているサリアナ。
「さて、カール?どうして私にベガルータ皇子を締めさせたのかしら?」
お行儀悪く背伸びして問いかけてくるサリアナに、爽やか笑顔で答えるカール。
「うん、実はね。アルタイル帝国の次期皇帝である友人から頼まれてね。彼は側妃の息子で第一皇子。ベガルータ皇子は正妃の息子で第二皇子なんだ」
「それを聞いただけで、ドロドロ王宮政略恋愛もの小説が1冊書けそうですわね。ご馳走さまでしたわ。」
「ちょっと!話を終わらせないでくれよ」
カールが深いため息をつく。
「ベガルータ皇子本人は兄である第一皇子を立てて共に国を支えて行こうとしてる。兄弟仲はいいんだ。だけど、正妃や第二皇子派が引かなくて困ってるんだ」
「はぁ、本当に権力好きな方は嫌ね…」
「それで、有力な第二皇子派からは自分たちの娘を妃にするためにほぼ毎晩、娘たちを送り込んでくる。手段お構いなしだ。入浴中に入ってきたり、夜這いをかけられたり、媚薬を盛られたりと、あの手この手とバラエティーにとんでたらしいよ」
「………それで極度の女嫌いに?」
「あぁ、でも女嫌いとは言え、あの態度はいただけないだろう?それで、ショック療法で君にぶつけたら少しはマシになるかと思ってね。効果があったみたいだよ?かなり改善されたらしい」
「…………」
ショック療法って意味が分かりませんわ。なぜ私と話すのがショックを与えることになるのでしょう?あら、美味しそうなリンゴですわね。
「ちょっ、サリー…私のカップにリンゴ丸絞りジュースを注ぐのは止めて!絞りかすまで丁寧に入れないで!」
ふぅ、手を拭きましょう。やはりジュースは絞りたてが一番ですわ。私、自らの手で丸ごとリンゴを絞った美味しいジュースですもの。
「これ飲まなきゃダメなやつ?ねぇ、リンゴの芯から皮まで丸ごとINしてあるよ?」
「栄養を余すことなく取れますわよ」
軽い仕返しをカールにして、スッキリしたサリアナでした。
一方、ベガルータ皇子は噴水を破壊したサリアナにドキドキしたためか(これぞ吊橋効果!)かなり彼女を異性として意識していた。
しかし、彼の今までの言動もあり、滞在中のささやかな『貴女に好意があります』アピールはサリアナには全く伝わらず撃沈した。ご愁傷さまでした!
容姿端麗、血筋はピカ一、侯爵令嬢サリアナの婚約者探しはまだ続く。今回はちょっと惜しかった!
うん!恋愛って難しいですね。
ムラのある亀更新になりますが、よろしくお願いします。