公園でピクニック3
「ふぅ、スッキリしましたわね~」
「はい!本当にスッキリしました。やっぱりお姉様には敵いませんでしたね。更に精進します!」
爽やかな木漏れ日を気持ち良く感じ、侯爵令嬢サリアナと公爵令嬢ファルミラがにこやかに語らっている。
そしてその横には、死に絶えた魔獣の山がこんもりといくつも出来ていた。
ナルエルとベガルータも近くで座り込んでくつろいでいる。
「おぉ~い、サリアナ、ファルミラー」
2人に呼び掛ける冒険者がユックリとこちらに歩いてくる。
「「師匠!!」」
「騎士団からも冒険者ギルドに依頼が来て、共闘する気だったんだけどな。お前らだけで終わっちまったか」
魔獣の山を突っつくサリアナとファルミラの師匠であるザッカードは、酒瓶片手にチビチビと酒を煽って話しかけてくる。
「人的被害がゼロで助かりました。それにしても、またえらく素早い討伐ですね。皆様は最初からここに居たのですか?」
呆れたように話しかけてくるのは、騎士団団長。王都の公園に魔獣が出たなど、本来大惨事になる事態の為、急いで来たのである。
「はい、懇親会は出禁を申し渡されまして、公園にピクニックに来ておりましたの。そうしたら、たまたま魔獣がわんさか現れまして…」
「ははっ!懇親会出禁とかウケるな!ぷぷっ!お前たちじゃそうなるよな」
「師匠…この間の警護の日、サボりましたね?給料減額…」
「だぁ!!代わりにファルミラの稽古つけてやったじゃねーか!」
「それは、三十年物のお酒で手を打ったはずでは?」
「ちっ!覚えていたか!ちっこい頃は簡単に丸め込めたのになー」
お前も少しは成長しろよ、と周りにいる騎士や冒険者の冷たい眼差しがザッカードに突き刺さっているが、本人は全く気づいていない。いや、気づいたとしてもおそらく毛ほども気にしない。
「魔獣の後始末は騎士団とギルドにお願いしても宜しいでしょうか?団長様」
「勿論です。討伐の協力ありがとうございました。後程、改めてお礼をさせていただきます」
団長の丁寧なお辞儀を合図にサリアナ達も騎士と冒険者に別れを告げ、動き出す。
「では、屋敷に戻りましょうか?一応お弁当も食べましたし、運動も出来てストレス発散も出来ましたし、オールオッケーですわ」
「この事態をオールオッケー、と言われても困るな…」
ため息をついて、歩くベガルータ。
「まぁ、実際オールオッケーでしょう?何の被害も出さず、収束出来たのですから。こんなところに魔獣が出たのは明らかにおかしいですが、対応するのはこの国の王族で、他国の私たちには文句は言えども、動くことは出来ませんしね」
最近、色々振りきったらしいナルエルがサバサバと割りきった様子で答える。
「ええ、ここからはカルザン王太子殿下が頑張ればよろしいのですわ。ふふふふふ、また不眠不休で体に鞭打って馬車馬のように働くのですね。従姉妹として、差し入れ(意味:からかい)には行ってあげましょう!」
「お姉様がちょいイジワル…」
「気のせいですわ、ファルミラ様。いつもからかわれてるから、たまにはいじってやる!なんて考えていませんわ、おほほほ」
とても楽しそうなサリアナ。そのままサクサクと歩いていると、
「はっ!お姉様、大変!皆、気配を消して隠れてください!」
切羽詰まったようにファルミラが警告を発し、しゃがみこむ。
3人もつられてしゃがみこみ、気配を押さえる。
『どうなさいましたの、ファルミラ様』
ひそひそ声で話しかけるサリアナに、無言である方向を指差すファルミラ。
そうっと、そちらを見ると一組の頭の悪そうなカップルがいた。
「いやん、ポール~。そんなところ触っちゃ、だ・め。さっきまで魔獣がいたんだから、後始末で人がたくさん居るのよん?」
「マリー、魔獣よりも君の美しさに僕はヤラれたよ!ノックアウトさ!!」
4人は、同時に思った。
((((これが噂のバカップル!!))))
『いや、凄いな。さっきまで命の危険もある状態だったのに、おそらく、まだ魔獣が全部討伐されたかも知らないくせに、こんなところでイチャイチャとは!勇者か?勇者なのか?または脳ミソがスライムのバカか?』
『脳ミソスライムのほうでしょうね。頭が悪そうな顔してますし』
悪態をつきながらも、何故か小声で話し、視線は彼らから外さないベガルータとナルエル。女性陣はひたすら無言。
「マリー…」
「ポール…」
床ドンの体勢になるバカップル。それを見て前のめりになる4人。
「これが、有名な床ドン…」
手を胸の前で組み、目をキラキラさせて呟くファルミラ。
バカップルの顔が近づく。
『ファ、ファルミラ様!これ以上は見てはダメですわ!お預かりしている令嬢にこんなの見せれません。早いですわ!!』
サリアナがあたふたしはじめて、ファルミラの両目を手で塞いだ。
『えぇ~?お姉様、私はもう16ですよ?お姉様も過去に婚約者がいたんですよね?少しくらい大丈夫ですよね?』
くりん、と首を回してサリアナを見ると、真っ赤になって狼狽えていた。
『あれ?お姉様ってある方面は振りきってるのに、こちら方面は超初心者?今までの婚約者の思い出で、色めいたものは無かったんですか?』
『思い出…池に突き飛ばしたとか、急所に蹴りを入れたとか、顔面ブチのめしたとか、最後の時しか思い浮かびませんわ…』
『『『…………………』』』
ポン、と3人の手がサリアナの肩に慰めるように置かれた。
そして、気づかれたのか、いつの間にかバカップルも消えていた。刺激をありがとう、バカップル!!
誤字脱字報告&感想大変ありがとうございます。