サリアナちゃんの冒険 ―ハイハイ編―
サリアナの師匠のザッカードが名前は出てくるのにほぼ出てないので、オマケ話で一度出しておこうと思いました。
そして、その話の前に時系列的にこの話の方が先だな、と思い、あげましたが、オマケで時系列なんか関係ないとの突っ込みは無しでお願いします!
いつもより長めです。オチ、捻りは全くありません。
と言う訳で、この後も一本載せます。読んでいただけると嬉しいです。
お母さんがいなくても、表情が分かりにくい侯爵様を始め、皆に可愛がられスクスク育つサリアナちゃん、現在月齢9ヶ月。
転がりローリング走法から、進化した高速ハイハイをマスターした今日この頃。相変わらず逃走癖が治りません。
そんなある日…侯爵家裏庭で野球大会が開かれました。
忙しい侯爵様を除き、時間交代で順番に皆参加です。
解説は乳母のドーラ(25歳、1歳の男の子あり)&執事のセバスチャン(35歳、恋人募集中)です。
「さぁ、始まりましたね、司会のセバスチャンさん!第3回侯爵家主宰野球大会~」
「解説のドーラさん、優勝チームには通常の有給に加えて半年の間にプラス3日間。更に更に1人当たり2万ガロンの報奨金が出ます。侯爵様、太っ腹ですね~、福利厚生に気を使ってますね~」
ガチ解説である。
そんな中で進む試合。塁に出る料理人コレールに代わり代走者が出ます。
「さぁ、ここで料理人コレステロール…違ったコレールに代わり、代走者サリアナお嬢様が出塁します!」
「バーブ~!」(乳母訳:ガンバる~)
高らかに声を張り上げ、よつん這いから右手を挙げ、フリフリするサリアナちゃん。
「巨体(超オデブ)のコレールが走ると、色々(血圧、心臓、膝など)まずいですからね、ドーラさん」
「そうですね、セバスチャンさん。それに比べお嬢様はフットワークが軽く、スピードもコレールと段違い。素晴らしい代走者です。お嬢様の通訳はお任せ下さい」
ここには、月齢9ヶ月の乳児を試合に出すな、と言う者はいない。なぜなら、毎日サリアナちゃんの華麗なる脱走劇を見ている者たちばかりだからだ!
ちなみに今日のサリアナちゃんの姿は、最高級の生地を使ったベストと可愛らしい白のブラウス。侯爵家の家紋が入ったボタンがブラウスの一番上のリボン留めになっている。そして下はピンク色のおズボンをはいています。
ここまでは普通の乳児。しかし、サリアナちゃんの肘から先の指先までと、膝から先の足先までもアダマンタイト製防具が装着されている。ちなみに色は可愛いピンクに塗装し、ヒヨコちゃんが描かれている。
その防具は、一番外側は硬いアダマンタイト。だけど、内側は綿が入って当たりが柔らかくなっているサリアナちゃん専用のハイハイ特化防具、侯爵家渾身の一品である。
ちなみにアダマンタイトは、今日お休みのプラチナ冒険者ザッカードに依頼して確保した。依頼料はそらもうお高かった。←ぼったくり?
塁に出たサリアナちゃん。さっそくピッチャーを煽る。
「ブーブー、アッブー、アーブブブアー」
(へいへい、ピッチャー、リードされてるよー)
ピッチャー、ランナーをちらっと確認すると、振りかぶって投げる。カッキーン!打った!
走る(高速ハイハイ)サリアナちゃん。ホームに返ってきた玉を捕り、構えるキャッチャー。タッチされる、と思った瞬間、サリアナちゃんは宙を飛んだ。
そう、侯爵家の使用人たちは無駄に凝り性だった。お嬢様の防具ということで、耐久性、軽さ、見た目にこだわり、余計な機能も依頼した。
それはジャンプ機能!そしてサリアナちゃんはキャッチャーを飛び越えホームベースに着地。1点入った。
「「ヨッシャー!!」」
サリアナちゃんチームは勝って大喜び。サリアナちゃんを胴上げしました。
その時、防具のジャンプ機能が誤発動。サリアナちゃんは塀のお外に彗星のように飛んでった!
「「マジか!ヤベェ!」」
慌てて裏門から外を見ると、そこには仕入れ業者のトムじいさんの魔道車が出発するところだった。よく見ると、その荷台にはサリアナちゃんがちょこん、とお座りしている。
「トムじいさん!待っ「へい!血潮がたぎるぜ!行くぞわが愛車、はやぶさ号!!何人もワシの前を走らせないぞ!」」
…飛ぶように見えなくなった。
「そうーいや~トムじいさん、スピード狂だったよ…」
しばらく呆然としていた使用人たちが我にかえり、慌てて対応に乗り出す。
街に行く者、侯爵様に連絡する者、お留守番する者パパッと別れると動き出す。さすが、普段サリアナちゃんに振り回される面々、慣れている。
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荷台に乗ったサリアナちゃんは超ご機嫌だった。
「アーブブ~♪ア~ブ~♪」
鼻歌までハミングしている。
街について、トムじいさんも荷台を見て気づいた。
「あれま!侯爵家のサリアナお嬢ちゃんじゃないか!何で乗り込んどんじゃ?」
「アブー」
「こりゃあ、屋敷に1度戻らんといかんなぁ」
ちょっと困った顔をして呟くトムじいさんの横を、視察団が通りかかる。
「ん?侯爵家のサリアナ?」
気になった言葉が聞こえたのか、視察団の中心部から声が届く。
「おい、その子を見せろ」
その中から王様が出てきてビックリするトムじいさん!
「あわわわわわ」
「うん、この容姿、聞いていた通りだ。確かに私の姪だな。ボタンも侯爵家の家紋だし。プラチナブロンドの髪にエメラルド色の瞳、目の中に所々青色を落とし込んだような珍しい色合いだからな。……こりゃ~可愛いなー」
「アブ~?」
見詰め合う王様とサリアナちゃん。恋は…全く始まらない。
「よし!城に連れていこう!侯爵はどうせ城に居るしな。侯爵家に使いを出しておいてくれ」
「かしこまりました。ですが、後で侯爵様が切れると思いますよ…」
「ハッハッハッ、構わん。さぁ城に戻るぞ」
そのままお城に連れていかれたサリアナちゃんは今、悪のり大好きな王様の頭の上にいます。
サリアナちゃん・オン・ザ・王様。
虎の威を借る狐…ではなく、国の最高権力者、王様の威を借るサリアナちゃん。最強である。心なしか上半身はのけ反り気味で威張ってる感が凄い。
頭上から王様の額をテシテシ叩いて中庭の方を指差すと、王様はちゃんと行ってくれるいい人です。
綺麗なお花がたくさん咲いている絶景にサリアナちゃんは大興奮。フンスフンスと鼻息が荒くなり、王様の髪の毛もフヨフヨと鼻息に流されています。
「よし!そろそろ時間だ。会議にこのまま行くぞ」
「アブ!」
「本気ですか?!」
慌てる侍従さんを放って、歩き出す王様と頭の上でふんぞり返り威張っている乳児のコンビ。
バタン!!
会議室の扉を開け入ると、自分の席についた王様が皆に話しかける。
「皆のもの、頭を上げなさい」
皆、頭を上げ王様を見ると、
「「「ぶ――!!!!!」」」
噴いた!
「サ、サリアナ?!何でそんなところに居るんだ?!」
全くだ!全員が思った。
「アブーブア~」(おとーたま~)
王様の頭上で父親の侯爵に手をフリフリするご機嫌なサリアナちゃん。
「街に居たから連れてきた」
王様の大雑把な説明に、頭上に?マークが出ている侯爵様。
「は?街に?なぜ?」
「知らん。でも、居たからな。まぁ、いい、会議始めるぞ」
「え?そのまま?!」
「では、この議題の予算は……」
「この金額は~」
王様が悩んで腕を組むと、真似をしてムムッ腕を組む。王様が頭をポリポリかくと、また真似をしてポリポリかく。首を傾げるとお首をコテン、と倒して真似をする。
大人の真似をしたいお年頃、いやお月頃のサリアナちゃん(月齢9ヶ月)。
「ですから陛下、ぐはっ可愛い…。こ、この予算はせめて、ぶふっ!」
王様の頭上のサリアナちゃんが真似をするのが可愛く、なかなか突っ込んだ議論が出来ない臣下一同。
そのうち疲れたのか、うとうとし始めたサリアナちゃんを侯爵様が受け取ろうとします。
「陛下、サリアナをこちらに渡していただけますか?」
「あぁ、眠いようだな。サリアナ、父上のところに行こうか?」
「ウゥ~。アブー」
目をコシコシ擦りながら侯爵様を見て、寝ぼけてジャンプ機能を作動させるサリアナちゃん。
「だぁ~!!!アブなっ!」
慌てて受け止めようとする侯爵様の手をすり抜けてテーブルの上に無事着地。寝ぼけたままのサリアナちゃんは連続でジャンプをする。
さすが侯爵家渾身の一品、いい仕事をする。
跳ぶたびに誰かにキャッチされ、寝ぼけてギュッと抱きついてはお父様ではないと気付き、ジャンプする。
最後に、強面の竜人の将軍様の頭に着地をしたサリアナちゃんはそのまま入眠。スピピー、安らかに寝た。
「あの、すまんが、将軍殿?頭の上の娘を、貰えますかな?」
冷や汗ダラダラの侯爵様に、頭上から回収したサリアナちゃんを無言で差し出す将軍様。寝ぼけたサリアナちゃんは将軍様にしがみついて、スリスリしてから回収された。
「ぐぅ!可愛い!」
強面の将軍様も、その他もデレた。
この一件で『小悪魔天使サリアナちゃん』としばらく言われた。ちなみにこの日の会議は全然進まなかった。
ここで初めて、サリアナちゃんの容姿表現がありました。いや、文才無いので本編で入れられなかったんですよ。ははっ♪
この頃のサリアナは可愛い二つ名…(^ー^)