全員集合!
題名は、8時○よ!全員集合!を意識したわけではありませんが、ほぼ全面コントでお送りします。
「…まずそこに正座をしましょうか」
今日も元気な侯爵令嬢サリアナはお怒りモードです。
他国の公爵令嬢ファルミラ、第2皇子ベガルータ、王弟ナルエルを受け入れてから1週間以上経ち、お互いに名前を呼びあい、気軽に話せるくらいに仲良くなっています。
そして今、その自分よりも高位の者を床に正座をさせ、腕組みをして3人を見下ろしています。
「あの、お姉様?そんなに怒らなくても…」
おずおずとファルミラが尋ねると、
ピキ!!
サリアナのこめかみの血管が多数浮かびあがった状態でニッコリと笑いながら問いかける。
「自分達がやらかした自覚がございませんの?」
「「「あります」」」
「まずベガ様」
「うむ!」
「暴言が直っていないではありませんか!どうして女性に攻撃的なことを仰られますの?」
「だがな、サリアナ嬢。あの女性は貴女とファルミラ嬢の悪口を吹き込んで来て実に不愉快だった。だから、2人を野蛮人と言うなら、お前は人の足を引っ張るしか出来ない虫ケラ以下だと、つい口にしてしまった。言い過ぎた。すまん」
ふぅ、とため息をついてサリアナがベガルータを見て、一瞬悩む顔をする。
「ならばセーフ!暴言はよくありませんが、人を貶める人は自業自得!」
「うむ!これはセーフだな、あっはは!」
これは普通アウトだよなー、と言いたげなベガルータの側近が、遠い目をして後ろに控えている。
「次にファルミラ様!」
「はい!」
ピョコンと元気に手としっぽを挙げて返事をするファルミラ。
「ダンスや会話の際に手を触れる男性全員に、腕相撲を仕掛けるのはお止めくださいな。お一人は肩の関節が外れましたからね」
「でも、お姉様。私は自分よりも強い人が好みなので、仕掛けないと分かりません。困ります」
「はい、アウト!人に仕掛けなければ相手の実力が分からないのは鍛練不足ですわ。私の師匠を紹介しますから、師事してください。分かるようになります。だからむやみに人に仕掛けないこと!」
「喜んで!!」
「最後にナルエル様」
「…はい」
「いくら女性が苦手だと言っても、魔法を発動させないでくださいませ。室温が氷点下で、思わず二度見するほど綺麗な氷柱&氷が会場に出来ていましたわ」
「緊張したら、ついブリザードが…」
「はい、完全にアウトー!うちでは、普通にお話をされているではありませんか。それと同じように振る舞えばよろしいのでは?」
「いや、ここにいるメンバーは、普通ではないというか、気を使うだけ馬鹿らしいというか…」
「どういう意味でしょうか?」
にこやかサリアナが怖い。
「そういえばお姉様。私、ナルエル様が作り出した氷で会場にペガサスの氷像を作っておきました。いい出来でしたでしょう。他にもコウモリの像もありましたね。誰が作ったのでしょうか?」
「………天使です」
「え?」
「あの像は天使ですわ」
「あれ~?作ったのお姉様でしたか……ちょいぶちゃむくれた顔、ギザギザの羽根、うん、コウモリだったよね。あれ……」
どんどん小さくなるファルミラの声。
「天使だもん……」
「氷像の出来映え以前に、あの極寒地獄の阿鼻叫喚の部屋で、氷を彫ってる淑女とかアウトだろう。むしろ怖いわ。メンタル、フィジカル強すぎるわ。2人ともに彫ってたのか」
意外にマトモな事をいったベガルータにナルエルが驚いた。
「マトモな事をいうんですね」
「ナルエル殿は、私をどう思っているのかな?」
「暴言と怒られるのが好きな方かと…」
「あん?!」
「サリアナ嬢に怒られるのが嬉しそうだったので、てっきりそちらの方かと思っていました。ですので、良ければこれを…」
そういうと、ナルエルは魔法の収納空間に手を突っ込んで何かを探しだし、そっとベガルータに差し出した。その本の題名は、
『Mへの階段』
「要らんわー!!!」
スパーン!本を床に叩きつける。
「あぁ!我が国の宰相が持たせてくれた彼の恋愛バイブルが!!」
「大丈夫か?ナルエル殿の国!」
「彼はSです。その本は相手に読ませるものです」
「どっちにしろ、大丈夫か?その宰相!」
すすっとさりげなく、ベガルータから距離をとる女性たちにベガルータが訴える。
「ご、誤解だぞ!私はそんな趣味嗜好はない!!」
「「「…………………」」」
「なんだ!その沈黙は!!」
「冗談はさておき、我が国の第1王子カルザン殿下より通達がございましたわ。懇親会、貴方達は当面の間出禁となりました。私も道連れですわよ。私の婚活を一体どうしてくれるのですか?!私はただ氷を彫ってただけなのに~」
「冗談って精神が結構ゴリゴリに削られたが…。というか、氷を彫る余裕が有ったのなら、ナルエル殿を止めれば被害が小さかったのではないかな?」
「つい氷を彫るのが楽しくて、我を忘れておりましたわ」
「うん、そうか。この国の王族は色々大変だな」
何だかんだでうちに来た者どおしは、いい関係を築いているようで良かった良かったと、サリアナはポヤポヤと呑気に考えていました。しかし、その頃カルザン王子の元には、彼らに対する苦情の嵐が吹き荒れていました。
「ぐぅ、胃薬くれ。あぁ、サリーの鋼のメンタルが欲しい…」
カルザン王子、哀れ。頑張れー!!
誤字脱字報告ありがとうございます(^ー^)