4
「……は……?」
少女が口にしたのはなんということはないよくある誘い文句。
ただそれが自分の現状とはあまりにも一致していなかったから、別の誰かに向けられた言葉ではないかと思わず周りを見回してしまった。
「えっと、あなたに言ったんですけど……」
「いや、なんでオレに?」
少女は未だにおどおどしているが、アルの困惑も相当なものだ。冒険者をやめるかどうか考えていたら、なぜか別のパーティーに誘われてしまった。
「その……一人でいるのが貴方だけだったので、貴方はまだ誰ともパーティーを組んでないんじゃないかって……そう思ったんです」
ようやく事情が呑み込めてきた。確かに酒場で一人暗い顔をしていればそう見えても不思議じゃない。
「まず勘違いを正しておくけど、オレはもうすでにパーティーを組んでるから君とは組めない」
「そ、そうだったんですか? ごめんなさい勘違いしてしまって」
「いや、いいさ。それと君はここのギルドの冒険者じゃないね?」
「はい。どうしてわかったんですか」
「初めて見る顔だったからね」
さらに言うならそんな自信のなさそうな顔で誰かをパーティーに誘うような奴はここのギルドにいるはずはない。そう思ったが、流石に口には出せなかった。
「やっぱりこの町の冒険者さんは優秀なんですね。一人一人の顔を覚えているなんて」
もはやお上りさんであることを隠そうとさえしなくなった少女をどうしたものかと思案する。このまま放っておけば明日には身ぐるみはがされて道端に捨てられる可能性さえある。それは寝覚めが悪い。
「一応聞くけど、この町では冒険者は全てどこかのギルドに所属することになっていて、同一のギルドに所属しなければパーティーすら組めないことを……知らないよな」
「……知りませんでした……」
もはやこの町まで来れたことさえ驚くほどの無知さだ。少女もようやくそれを自覚したのか顔を赤くしている。
仕方ない。こうなったら基本的な知識を説明しよう。
「まずどこかのギルドのギルドマスターに会ってギルドに登録する。そうしなければ冒険者ですらない、ただの浮浪者かお手伝いさんだ。それからしばらくソロで実力がどの程度か試される。ここで運が良ければ他のパーティーから誘われる。ギルマスが仲介することもあるな。それがなければ自分がパーティーを作ることになる」
駆け足で説明を続ける。きちんと説明を理解できているのか少女は相槌を打っている。
「この町ではギルドの移動は簡単だけど、一度入ったパーティーを抜けるのは……まあ難しいな」
あえて言葉を濁したのは誰もが知っていることだからだ。
冒険者にとってパーティーメンバーは家族以上の存在である。だからこそ冒険者に憧れる若者も多い。人間は一人では生きられない生き物だからだ。現実には才能の差という夢や努力では越えられない壁があり、別れなければならない時は来る。実感できるようになったのは最近だが。
「はい! パーティーの皆さんは大事にしろと教えられました」
「だからこそ、パーティーメンバーを選ぶことには慎重になるし、他所のメンバーを勧誘するには覚悟がいる。わかるよな?」
そう言うと少女の顔は見る見るうちに青くなり、凄まじい勢いで頭を下げた。
勢いがつき過ぎてカウンターに頭をぶつけるが気に留める様子はない。
「す、凄く失礼なことをしてごめんなさい!」
冒険者をやっていれば人を疑わなくてはならない場面なんかいくらでもある。人の良すぎる人間に冒険者は務まらない。オレに才能は無いかもしれないけど、この娘よりはましだ。
何一つとして自慢にはならないけれど。




