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酒を飲む。しかしどれほど飲んだところで酔えはしない。今日ばかりはいくら飲んでも全く酔えない自分の体質が恨めしかった。
酒の強さは意外なところで役に立つ。冒険者にとって酒に強いことは一つのステータスでもある。基本的に騒ぐことが好きな連中が多いからだ。だがそんな才能よりももっと戦いに向いた力が欲しかった。
腰に下げた剣を自在に操る才能も、魔法を使う才能も何一つ備わっていなかった。
「アルさん。ご注文の品です」
「ネモアちゃん? オレは何も頼んでないよ?」
「私からのサービスです。ライシャさんのことだから厳しいことを言ったんでしょう?」
「大したことないよ。でもありがとう」
ネモアはライシャが数か月前に連れてきた新人だ。初めは皆、ぱっとしないネモアを雇ったことに首をかしげていたが、屈託のない笑顔と持ち前のサービス精神であっという間に看板娘になった。
……いつまでたっても伸びないオレとは大違いだ。
思えば仲間に声をかけられたのもこんな風に一人でいた時だったか。
『君はいつもここで飲んでいるよね。良ければ僕たちとパーティーを組まないかい』
そう話しかけてきたのはリーダーであるセクタだった。オレと同じ戦士でありながら魔法の才もある有望な人材だ。
オレが伸び悩んでいることを理解して励ましてくれた。でもその優しさが苦しいんだ。
『田舎からこっちに移り住んできたんですって? 足引っ張らないでよね』
弓使いのサフィは態度こそ刺々しいがいつも仲間を気遣っていた。最初はそうとは気づかずに戸惑ってしまっていた。
『今日から皆さんの仲間になりまーす! よろしくね!』
風魔法が得意なナナはオレより後でパーティーに入った。いつも天真爛漫で空気を和ませてくれた。でも今では明らかに彼女の方が格上の冒険者だ。
「どこで間違えた……? どうすればよかったんだ……?」
独白は誰に聞かれることもなく、酒場の喧騒に吸い込まれていく。
パーティーを組んだ当初はそう実力差はなかった。しかし今ではオレ一人だけが取り残されている。
ライシャの見立てが確かならその差はもう埋まることがない。――――もう潮時かもしれない。
このまま同じパーティーを組んでいても誰一人として得をしない。それくらいならいっそ自分から抜けるべきだ。
怪我や年齢ならまだしも実力不足による引退なら世間からの風当たりはきついだろう。それでもこのままずるずる時間を浪費するよりは――――
「あの、」
声をかけられてハッとする。いくら屋内とはいえこんな近くに人がいることに気が付かないなんて間抜けすぎる。
「何か用か?」
声をかけてきた女性――いや少女はおどおどしながら不安そうに視線をさまよわせている。一目でつい最近冒険者を始めたばかりだとわかるほど場慣れしていない。
「何か話があるんだろう?」
アルがそう促すとやがて少女は意を決してこう告げた。
「私とパーティーを組んでくれませんか」




